スーツケースに子供を入れて入国させた父親の判決、罰金刑のみに
子供をスーツケースに入れて国境を越えさせようとし逮捕された父親の裁判が終了し、罰金のみの刑罰が科されることがわかった。
日本円にして約1万2000円の罰金のみ
20日スペイン領セウタで、2015年に自らの子供をスーツケースに入れて不法に入国させようとしたとして逮捕された父親の裁判が終了した。
検察は当初Ali Ouattaraさん(45)に対し、欧州側への息子の違法な入国をほう助したと共に、子供の命を危険に晒したとして、懲役3年の刑を求めていたという。
しかし子供がスーツケースに入れられて運ばれることをOuattaraさんが事前に知っていた証拠はないとして、判決ではOuattaraさんに92ユーロ、日本円にして約1万2000円の罰金の支払いのみを命じることとなったという。
X線でスーツケースを調べたら現れた子供のシルエット
そもそもこの事件が起きたのは2015年5月7日のこと。
スペイン警察はこの時、重そうなスーツケースを引きずりながらセウタへの国境を越えようとしていた若いモロッコ人の女性を発見。
不審に思いつつスーツケースをX線で調べたところ、胎児のように丸くなった姿勢で収まる子供のシルエットが現れ仰天したという。
この件に関する書籍を執筆したスペインのジャーナリストNicolas Castellano氏によると、スーツケースから救出された子供は「僕の名前はAdouです」とフランス語で話したという。
Adou君はスペイン側の国境で待ち構えていた両親とその後すぐに再会できたというが、両親は警察に見つかり逮捕されたという。
子供がスーツケースに入れられたことを知らなかった父
アフリカ北端に位置するスペインの飛び地セウタでは、国境に設置されたフェンスを越えたり、車やバスのダッシュボードなどに身を潜めたりして国境を越えようとする移民が後を絶たない。
一方、このように人をスーツケースに入れて入国させようとする試みは、セウタでは初のものだった。
Ouattaraさん自身も、子供がスーツケースに入れられることは想定していなかったとしている。
OuattaraさんはAdou君をスペイン側に入国させるため、業者に5000ユーロ、日本円にして約65万円もの額を支払ったという。
しかし業者側は当初Adou君を、コートジボワールの経済都市アビジャンからスペインの首都マドリードへと飛行機で送り届けることを約束していたにも関わらず、その後車でセウタから入国させることにしたと伝えてきたという。
Ouattaraさんは裁判開始前、AFPの取材に対し「この裁判には勝てるという自信を持って臨んでいる。なぜならば私は人身売買を行っていたわけではないからだ」と言っていたという。
ちなみにこの事件からわずか3か月後、セウタ同様アフリカ大陸に位置するスペインの飛び地メリリャから、ヨーロッパ大陸側のスペインへと渡るフェリーに積まれた車のトランクの中で、27歳のモロッコ人の若者が窒息により死亡している。
Adou君を連れてくること拒否し続けたスペイン政府
アビジャンで哲学とフランス語の教師を務めていたOuattaraさんは2006年、地中海をボートで渡るという危険かつ違法な方法でスペインに入国。
しかしその後スペイン領のカナリア諸島で仕事と滞在先を見つけ、妻と娘を合法的に入国させることに成功したという。
ところがスペイン政府は、Adou君を連れてくることについては4度にもわたり拒否。
「私はコインランドリーの仕事で月1300ユーロ(約17万円)以上を稼いでいたのに、スペイン政府は十分ではないと言ってきた」というOuattaraさん。
「我々からすれば、子供が一緒に来るということは重要なことだ。息子なくしては暮らしていけないし、息子のことを考えずにはいられない」
Ouattaraさんの妻と娘、そしてAdou君は現在フランスに住んでいるという。
一方、Ouattaraさんのみは裁判のためスペインに留まっていたが、「これで全て終わりだ。妻と娘、息子、そして私と皆でビルバオでの新たな生活を始めることができる」と喜びを語っている。
子供をスーツケースに入れて入国させるという方法は論外だが、Adou君一人の入国を拒み続けてきたスペイン政府の仕打ちも残酷だ。しかしこれでOuattaraさん家族が揃って暮らすことが出来るのであれば、何よりのことである。(了)
出典元:The Local Spain:Father of boy smuggled into Spain in suitcase on trial(2/20)
出典元:Euro Weekly News:Father of boy smuggled into Spain in a suitcase walks free(2/21)