イーロン・マスク氏による“ハイパーループ”構想、実現の日は近い?
イーロン・マスク氏が構想する「ハイパーループ」実現の日が近く訪れるのでは、と海外で伝えられ話題になっている。
突拍子もないアイデアと思われたハイパーループ構想
そもそも「ハイパーループ」とはイーロン・マスク氏が2013年に構想を発表したもので、真空状態のチューブ管の中に浮遊する“ポッド”と呼ばれる乗り物が、時速数百キロメートルにも及ぶ速度で移動するもの。
発表当時には次世代の輸送システムとして注目を集める一方、実現性に欠けるとの批判をも浴びていた。
しかしその後ハイパーループ構想には多くの企業が参入。
その実現に必要な技術の開発を各社がこぞって行うまでになり、今や米国ほか国外での運用開始に向け、単距離での走行実験を実施するにまで至っているという。
バージニア工科大学で輸送システムについて研究するDavid Goldsmith氏は、「私の想像よりも非常に早く、そして世界中で(ハイパーループは)起こりつつある」と語る。
ポッドの完成に向け動く企業
そのハイパーループ構想の中でも、最も進んでいる分野の1つとみられるのがポッドだ。
これに関してはVirgin Hyperloop Oneが既に革製でひじ掛け付きの客席に、スクリーンまで設置された豪華なプロトタイプを製作済みとのこと。
さらにHyperloop Transportation Technologiesもポッドを手掛けており、これはチューブの外側の景色をスクリーン上に映し出すヴァーチャル式の窓が付いた全長約30メートルのものとなる予定で、乗客は1台につき40人乗ることを想定しているという。
Goldsmith氏はこのポッドの乗り心地について「実際にはこのような乗り物での乗車は静かなものになる」という。
さらにポッドの速度上昇の妨げとなる空気による抵抗を減らすため、チューブ内から空気を吸い出すことについては「飛行機の機体に閉じ込められるのと同じようなことで、空気が(チューブ管内に)ないだけだ」としている。
ハイパーループ構想におけるポッドの速度は、最高時速約1200キロメートルが目標として掲げられているという。
一方、これまでの最高時速はVirgin Hyperloop Oneのポッドが昨年12月にネバダ州の実験で到達した時速約390キロ。
目標時速にはまだまだほど遠いが、これでも従来の輸送システムと比較すると非常に速い速度であることは間違いない。
提唱者マスク氏本人も動き出す
一方、ハイパーループの実現についてはマスク氏自身も行動を開始させている。
マスク氏がこの構想のため設立した企業「The Boring Company」は、ワシントンD.C.からニューヨークまで30分で到着することを目標に、ハイパーループのトンネル建設を計画。
さらにカリフォルニアのスタートアップ企業「Virgin Hyperloop One」と「Hyperloop Transportation Technologies」は米国のみならず、アジアからヨーロッパまで世界中でのルート建設を模索している。
またVirgin Hyperloop Oneは2021年に実物大のハイパーループによる試験を開始させたいとしており、その後同社はアラブ首長国連邦やインドをはじめとする米国外でハイパーループの建設を始めたいとのことだ。
さらにVirgin Hyperloop Oneはミズーリ州とコロラド州間におけるルート建設の実現可能性の研究をも開始させており、The Boring CompanyもワシントンD.C.におけるハイパーループの駅を掘削する許可を既に得たという。
Hyperloop Transportation Technologiesもシカゴとクリーブランドを結ぶルートの実現可能性を探る研究を開始させていると同時に、ヨーロッパ域内や韓国、そしてアラブ首長国連邦におけるルート建設をも視野に入れているといい、ハイパーループ実現に向けた動きは今や世界中で加速しつつあるようだ。
ハイパーループのメリットとは?
しかし改めてハイパーループ実現によるメリットとはいったい何なのだろうか。
ハイパーループの走行ルートは、地上、あるいは地下に設置される直径約3.4メートルのスチール製のチューブだ。
このためハイパーループは渋滞に巻き込まれるのがないのはもちろんのこと、同様に高速での移動を可能とさせる飛行機と異なり天候不順による影響を受けにくい。
そのため遠方から通勤する人など、多くの利用者を惹き付ける可能性はある。
さらには車や飛行機と比較して環境への負担が少ないという点も、ハイパーループの強みの一つだ。
実現に向け残された多くの課題
一方このハイパーループの走行ルート建設にあたっては既存の建物や道路などのインフラを避けねばならないと共に、乗客が揺れによる不快感を感じぬよう急カーブの設置をも避けねばならない。
そのため慎重なルート設定が求められる上、ハイパーループには技術的な課題もまだ残されている。
ハイパーループにおいては乗客が乗降した直後に再び素早く空気を吸い出すと共に、数百キロにも及ぶ距離を走行する間、空気が吸い出された状態を保たねばならず、これが可能であるかは今後試験を行わねば分からないという。
さらにハイパーループ実現に向けた、もう1つの大きな課題は巨額のコストだ。
Forbesが伝えるところによると、1.5キロのルートを建設するのにかかるコストは最大1億2100万ドル、日本円にして127億円以上にも及ぶ可能性があるとのことだ。
それだけではない。
ルート建設のためには土地の権利を取得すると同時に環境面での承認も必要となり、それに加えて規制の存在や安全性の確保まで鑑みると、実現に向け残された課題はまだまだ数多く残されている。
またこの安全性の確保の問題について、英国ロンドンのInstitution of Mechanical Engineersの組織長を務めるPhilippa Oldham氏は「我々は安全機能と、もし何か問題が発生した際に何が起きるかということを、もっと知る必要がある」と述べる。
このためハイパーループの商業利用の実現には、実際にはまだ長い時間が要されることが予想されている。
これについてオランダのデルフト工科大学の研究者Kees van Goeverden氏は「可能性としては、数年以内に幾つかのルートにおいては運用が開始されるかもしれない」としつつも、「ただシステム全体としては2030年以前に実現されることはないだろう」と付け加える。
尚ハイパーループ乗車の際にかかる料金については、まだ全くの未定とのことだ。
イーロン・マスク氏の“突拍子もない”アイデアから開始されたこのハイパーループ構想。いつ実現することになるのか、本当に実現できるのか今後が楽しみである。(了)
出典:NBCNews.com:Elon Musk’s hyperloop dream may come true — and soon(3/11)
出典:Slate Magazine:The Hyperloop Pipe Dream(3/1)
出典:Forbes:Leaked Hyperloop One Docs Reveal The Startup Thirsty For Cash As Costs Will Stretch Into Billions(2016/10/25)