「コーランは毒」と唱えていたオランダ極右政治家がイスラム教に改宗、その経緯とは?
オランダで、反移民、反イスラムを掲げる極右政党にかつて属し、イスラム教を罵倒、批判してきた政治家が、この度イスラム教に改宗したという。
180度の方向転換といっていい彼に、一体何が起こったのか?経緯を追った。
極右政党出身の政治家がムスリムに
オランダの自由党(Partij voor de Vrijheid、略称:PVV)出身の元下院議員、ヨラム・ファンクラーフェレン(Joram van Klaveren)氏が、キリスト教からイスラム教に改宗したことが明らかになった。
同氏(40)は、オランダのテレビ番組に出演し、司会者から「本当にムスリム(イスラム教徒)になったのか?」と尋ねられ、次のように答えた。
「唯一の神を信じ、ムハンマドをイエスやモーセのように預言者として信じているという意味で、私はムスリムです。」
司会者から「それは正式な回答?」と念を押され、「はい、公式かつ正式な答えです。」と返答した。
Joram Van Klaveren former Dutch PM that once hated Islam: Joram researches Islam to write against the faith and ends up becoming Muslim. From hate to love From darkness to light. #love #hate #islam #haqq #truth stands clearly from evil. pic.twitter.com/nq8yjfffLF
— Yusuf Chambers. (@YusufChambers) February 5, 2019
オランダの極右政党、自由党とは
ファンクラーフェレン氏がかつて属していた自由党は、イスラム系移民の排斥、トルコのEU加盟に反対するなど、国民保守主義の立場を取り、極右政党といわれている。
2010年に行われた下院選挙では、「イスラム諸国からの移民受け入れを停止」「コーランの発禁処分」「スカーフを被っている人に課税」など、反イスラム的な政策を公約に掲げていた。
党首のヘルト・ウィルダース(Geert Wilders)氏は、過激な思想とイスラム教徒を挑発する言動により、過去には暴漢に襲われたこともあるという。
2008年には、イスラム教とコーランを暴力と結びつける映画「Fitna」を作成、公開するや否やイスラム教徒から激しい抗議を受けた。
暗殺計画も企てられているというウィルダース党首の周辺は、常に厳戒な警備が敷かれているそうだ。
Look wht happens when u keep giving Allah's msg to those who mock Allah & his messenger. Allah guides those with a clean heart. Joram van Klaveren, enemy of Islam yesterday, today my brother in Islam. ❤️ https://t.co/zCPTTaZQEs
— Hamza Ali Abbasi (@iamhamzaabbasi) February 5, 2019
(ウィルダース党首(右)とファンクラーフェレン氏)
自由党時代に党首の右腕を勤めていたファンクラーフェレン氏も、イスラム教を嘘呼ばわりし、「コーランは害毒である」などの批判を繰り返していた。
しかし、2014年の選挙戦で、ウィルダース党首がモロッコ系移民に対して差別的発言をしたことにより意見が対立。その後、ファンクラーフェレン氏は自由党を離党していた。
反イスラムの本の執筆が転機に
今回の改宗についてファンクラーフェレン氏は、反イスラムの本を執筆する過程で、次第に自身の考えが変わってきた結果だと述べている。
「執筆作業を進め、イスラムについて調べるうちに、これまでのイスラムへの見解を揺るがす事柄が次から次へと出てきたのです。」
同氏は地元紙のインタビューに、イスラムに関するこれまでの自身のコメントは、「単純に間違いだった」と答えた。
「しかしそれが自由党の政策だったのです。上手くいかない全ての事項は、何らかの形でイスラムに関連付ける必要があった。」
ウィルダース党首は、ファンクラーフェレン氏の改宗を「ベジタリアンが、食肉処理場に働きに行くようなものだ。」とコメントした。
自由党からは過去にもイスラム教への改宗者が
自由党からのイスラム教への改宗は、ファンクラーフェレン氏が初めてではない。
アルナウト・ファンドールン(Arnoud Van Doorn)氏もかつて自由党に属し、ウィルダース党首と共にイスラム教を激しく非難してきた人物の一人であったが、2013年(2012年とする報道もある)にイスラム教に改宗した。
ファンドールン氏は、前述の映画「Fitna」に対するイスラム教徒の反応に関心を持ち、コーランを勉強し始め、やがて改宗するに至ったという。
更には、父親の改宗儀式に立ち会ったというファンドールン氏の息子も、その約1年後にイスラム教徒になったそうだ。
宗教に傾倒する人々が求めるもの
逆に、シリアではイスラム教からキリスト教へと改宗する人が出ている。そのことは先日こちらの記事でもお伝えしたが、本来の教義を正しく理解していない者(イスラム国)による迫害の結果、起こった反動であると筆者は考えている。
イスラム系の難民や移民が欧州に流れ込み、社会に溶け込む中で、キリスト教へと改宗するケースも報告されているが、多くは貧困層で、真っ当な教育を受けられなかった若者たちだ。彼らはイスラムという背景は持ちながらも、元々正しい知識を持っていない。
今回のファンクラーフェレン氏のように、知識人が勉強を重ねたのちに改宗するというのは、別の次元での話である。また、こういうケースでの逆のパターン(イスラム教学者の他宗教への改宗)は聞いたことがないし、今後もあり得ないだろう。
宗教と日常生活とが切り離されている日本では、なかなか理解しがたい話ではあるが、宗教に傾倒するというのは、現代社会において、人々が心の拠り所を求めていることの現れではないだろうか。(了)
出典元:Independent:Politician who said ‘the Quran is poison’ announces he has become a Muslim after trying to write anti-Islam book (2/7)
出典元:TRT World:Former far-right Dutch politician converts to Islam (2/5)
出典元:Arab News:Van Doorn’s son embraces Islam (2014/4/24)