イスラム教徒にとって聖なる月「ラマダーン」、善行や祈りを捧げる人々の真の姿とは?
イスラム教徒(ムスリム)にとっての一大イベント「ラマダーン」が、今月6日(国によっては7日)より世界一斉に始まったのをご存知だろうか?
ラマダーンという言葉は聞いたことがあるものの、実際にどういうものかと問われると分からないというのが正直なところではないか。
現在ムスリムは、全世界に16億人以上いるとされる。
日本人にはあまり馴染みのないラマダーンだが、日本に暮らすムスリムも10~20万人いると言われる現在、知識として持っておけば今後役に立つ機会があるかもしれない。
そこで、今回は未知なるラマダーンについて、少しご紹介しよう。
そもそも「ラマダーン」とは?
イスラム暦(ヒジュラ太陰暦とも言う)の12ヶ月には、それぞれ名前がついており、ラマダーンはそのイスラム暦の9月を指す。
ラマダーン=断食、と考えている人たちも少なくないだろうが、あくまで月の名前なのだ。
しかし、ムスリムの聖典「クルアーン」が、アッラー(アラビア語で『神』の意)から最初に啓示されたのがこのラマダーン月だったため、ムスリムにとってラマダーンは「聖なる月」となった。
『ラマダーンの月こそは、人類の導きとして、また導きと(正邪の)識別の明証としてクルアーンが下された月である。それであなたがたの中、この月に(家に)いる者は、この月中、斎戒しなければならない。』聖クルアーン(2章185節)
クルアーンにはこう述べられており、こうしてラマダーン中の斎戒が義務となったのだ。
「ラマダーン」はいつなのか?
前述のとおり、イスラム暦は太陰暦に基づく為、太陽暦の西暦とはズレが生じる。
西暦の1年が365日なのに対し、イスラム暦は大体354日なので、毎年11日ほど早まっていくのだ。
という訳で、今年のラマダーンは5月6日(国によっては7日)からだったのだが、来年は4月25日前後からということになる。
このように、毎年時期が変わるラマダーンは、冬に訪れることもあれば、酷暑の夏にやってくることもあるのだ。
何故断食をするのか?
ムスリムは、ラマダーン月は1ヶ月断食をする。断食はムスリムとしての柱である5行の一つで、これは義務である。
「1ヶ月も断食したら死んでしまうじゃないか!?」
いや、1ヶ月といっても1日中ではない。夜明け前から日没まで、太陽の出ている間のみ飲食を断つのだ。
またこの間は飲食のみならず、あらゆる欲を抑制することが求められる。喫煙や性交渉も禁止だ。
体内を清浄に保ち、空腹や喉の渇きに耐え、欲を自制する。アラビア語で「サウム」と呼ばれるこの行いは、断食というよりは斎戒という言葉が相応しいだろう。
サウムを行うことにより、貧者の苦しみを体感し、食べ物や飲み物に感謝することができる。また、民族・国・貧富の差などに関わらず、世界中のムスリムが一斉にサウムを行っているという連帯感を持つことにより同胞意識が高まる、等の利点があると言われている。
しかし、筆者は昔、どうしてサウムを行うのか尋ねた際に、あるムスリムの知人から言われた言葉が心に残っている。
それは、「アッラーがそう命じたから」というのである。
ムスリムにとって唯一無二で、絶対の存在である神、その神が仰ったのだからそれに従うのは当然だ。
なんという究極の理由だろうか。貧者の苦しみだとか、食べ物への感謝などというのは後付けの理由に過ぎないのだと。
我々日本人からすると、何故そんな辛いことを?と理由を求めてしまいがちだが、その後イスラム教国に暮らすことになった筆者は、ボーンムスリムと接する中で知人の言葉を理解するようになった。
彼らは生まれた時からそれが当たり前の環境であり、周囲の大人がサウムを行うのを見て育っているので、その習慣をごく自然に受け入れているのだ。
例外もあり、実はオプション満載のサウム
サウムはムスリムの義務といっても、例外はある。
まず、子どもや老人、サウムを行うことにより健康に害を及ぼすと考えられる病人等は免除される。
また、旅行中の者や妊娠・授乳中の女性も免除となり、生理中の女性はサウムを行うこと自体が禁止されている。これらの者は、出来なかった日数を後日行うようにとなっている。
そして万一、後日にもサウムを行うことが出来ない場合には、貧者への施しをすればよいとされている。
ここで問題となるのが、国際試合で活躍するスポーツ選手だ。オリンピックやサッカーW杯の日程がラマダンと重なった時に、どう対応するのかがよく話題となる。
過去にエジプトでは、ロンドン五輪に参加する選手に対して、旅行中にあたるため日中も飲食が許される、との宗教見解が出されたこともある。
しかし最終的に、この見解に従うのか、サウムを行うのかどうかは、本人の意思に委ねられている。
このように、一見とても厳格なルールで縛られているようなサウムだが、実はそれぞれの事情に合わせて対処できる、至って柔軟なものなのだ。
断食明けの食事「イフタール」
ここまではラマダーン中の日中のサウムについて述べてきたが、陽が沈むと、ムスリムたちの待ちに待った飲食タイムの開始である。
日没時刻は、世界各地で異なる。日本国内では都市により微妙に違うが、大体19時前後だ。赤道に近いインドネシアでは18時前だし、北欧に至っては22時過ぎと、国によるバラつきも大きい。
日没後に取る、断食明けの食事をアラビア語で「イフタール」という。これは朝食という意味なのだが、英語でも朝食はbreakfast、fast(断食)をbreak(断つ)となっているのが興味深い。
半日以上、身体に全く何も入れていないため、いきなりドカ食いするのは禁物だ。
まずはデーツ(ナツメヤシ)と水を口に含み、身体を慣らしてから少しずつ食事をするのが良いとされている。
ラマダーン中、ムスリムたちは、普段よりも増して家族や友人との親睦を深めあう。
また、野外にテントが設置され、そこで無料でイフタールが提供されることもよくある。
#RamadanLebanon
Lebanon entered the Guinness book of world records in 2017 by organising the longest Ramadan iftar table in the world at 2,184 meters with 5400 people having iftar, Beirut's Waterfront.#Ramadan #iftar #CelebratingRamadan #RamadanPhotos #Beirut #Lebanon pic.twitter.com/CumvQGN2Hj— Dr Zuleyha Keskin (@DrZuleyhaKeskin) May 30, 2018
ラマダーン月は、通常より何倍もの報奨が神から得られるとされており、任意の寄付や施し等、善行が奨励されているからだ。
そこで、このボーナス期間にたくさんのポイントを稼ごうと、普段はあまり厳格でない人も、この時期だけは信仰心が強くなるということもあるくらいだ。
テレビ局もラマダーン月には力を入れており、特別番組を放送する。イフタール時に家族皆で観賞できるようなコメディや、ドッキリカメラのような娯楽系の番組が多い。
イフタール後は、町全体が人々で賑わい、日中の静けさが嘘のように活気に包まれる。その賑わいは深夜まで続き、そして夜明け前にスフールと呼ばれる食事を取り、また次のサウムに備えるのだ。
誤ったイメージが先行する日本
このように本来は、善行を積み、自身の信仰を深める聖なる月ラマダーンなのだが、一部の者たちによる愚行により、世間一般に正しく伝わっていないと感じることもある。
外務省の海外安全ホームページには「ラマダン月に伴う注意喚起」として、独立したページが立ち上げられている。
ここでは、ラマダーン月にはテロが多く発生しているため、厳重な注意をするように、と案内されている。
善行とは異教徒の排除だと考える、一部の過激思想を持った者たちが犯行に及ぶことも残念ながら起こっているからだ。(しかし彼らの思考は、イスラムの教えから逸れたものであることを付け加えておく。)
この海外安全情報を読むと、ラマダーンがとても物騒なものであると考えてしまう人もいるだろう。
しかし、何度もお伝えするように、大多数のムスリムたちは、ラマダーンを心待ちにし、年に1度の一大イベントを楽しみにしているのだ。
ちなみに、ムスリム系の移民も多く暮らすカナダでは、首相のジャスティン・トルドー氏がラマダーン開始にあたり、ムスリムに向け敬意を表した祝福のメッセージを送っている。
国によっても、ラマダーンの扱いは様々である。
Wishing a blessed and peaceful #Ramadan to Muslims in Canada and around the world. Ramadan Mubarak! https://t.co/cEetAcwbTx pic.twitter.com/FmOLCRctxY
— Justin Trudeau (@JustinTrudeau) May 5, 2019
誰でも参加できるイフタールの会
これまでの説明を聞いてもまだよく分からないという人は、イフタールの集いに参加してみるのはいかがだろうか。
ここ日本においても、ムスリムたちは現在サウムを行っている。イスラム教の国々ではラマダーンになると、社会全体がスローモードになるのに対し、全くペースが変わらず完全アウェイの環境下で行うサウムは厳しいこともあるだろう。
そんな中でも、ムスリムたちは毎日サウムに励み、日没には同胞で集まり、イフタールの会を開いている。そしてその集いにはノンムスリム(イスラム教徒でない一般人)も参加することができるのだ。
東京の代々木上原にある東京ジャーミーでは、毎日400食以上のイフタールが無料で提供されている。(これらの費用は寄付で賄われている。)
ノンムスリムは、こちらのサイトから予約をすると、参加できるという。
Tokyo Camii held first iftar in this year with the support of Turkish ambassador H.E. Mr. Hasan Murat Mercan. More than 400 people shared their joy of this blessed month. Alhamdulillah
Iftar Sponsorship opportunities still available we kindly ask for your cooperation. pic.twitter.com/2DgVhAlFfE— 東京ジャーミイ & トルコ文化センター (@tokyocamii) May 7, 2019
また、東五反田にある日本イスラーム文化交流会館でも食事会が開催されている。日本ムスリム協会主催のこの会は週末のみだが、こちらは予約が不要とのこと。
イフタール&タラーウィーフの礼拝@日本イスラーム文化交流会館
信徒ではない方もご気軽にどうぞ!
برنامج حفل إفطار وصلاة التراويح ٢٠١٩ في جمعية مسلمي اليابان
Iftar and Taraweeh program at Islamic Cultural Exchange Center in Japan 2019
Everyone is welcome to enjoy our special Iftar! pic.twitter.com/URI0yfZ7z8
— Saeed Sato (@SaeedSato) May 9, 2019
東京以外でも各地において、モスクやコミュニティセンター等で同様の会が行われている。近くにモスクや留学生の団体等があれば、問い合わせしてみてはいかがだろうか。
隣人に優しく接するのは善行として奨励されており、いずれの会でも一般人の参加は歓迎されるだろう。
だからといって、敬意を欠く行動には注意したい。過去に、イフタールの会に招待された日本人女性たちが、ビュッフェパーティーと勘違いしたのか、断食明けのムスリムを差し置き、我先にと料理を取りに行く光景を目の当たりにした。
会の趣旨を理解し、参加することが大切だ。そうすれば同じ人間同士、彼らとの交流を通じて、メディアからでは伝わらない新しい発見がきっとあるだろう。(了)
出典元:Independent:Ramadan 2019: When is Islam’s holy month, why does its date change every year and why do Muslims fast? (5/6)
出典元:宗教法人日本ムスリム協会
出典元:東洋経済オンライン:つらい「断食」にイスラム教徒が熱中する理由 (5/11)