米大学が開発したジェル、マウスの実験で脳卒中による損傷部分の再生に成功
アメリカの大学により生体材料を使って開発されたジェル(Gel:ゲル)が、脳卒中でダメージを受けたマウスの脳内の血管やニューロンを再生させたとして、注目されている。
将来は人の治療に使われる可能性
このジェルを開発したのは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究者たち。同校のデイヴィッド・ギフェン医療大学院、神経学教授であるS. Thomas Carmichael博士は次のように語っている。
「私たちはこれ(ジェル)が脳卒中のモデルにおいて、脳を修復し、回復へ導けるかどうかを調べるために、実験室のマウスでテストを行いました」
「その研究では、脳卒中の後に機能していなかった脳の傷跡でしかなかったものにおいて、新しい脳の組織が再生できることが示されました」
そしてこの結果は、いつの日か、このようなアプローチが脳卒中になった人を治療するのに使われる可能性があることを示唆している、とDuke大学のTatiana Segura教授も語っている。
脳はダメージを受けると再生しない
そもそも脳は、脳卒中から回復するのに限られた力しか持っていないという。
肝臓や皮膚、その他の臓器とは異なり、脳がダメージを受けた後には新しい結び付き、例えば血管や組織の構造を再生させることはできないそうだ。
その結果、死んだ脳の組織は吸収され、血管やニューロン(神経細胞:軸索や薄い神経線維)のない、空洞のような状態になるとか。
そこでSegura教授は、空洞の周りにある健康な組織が、脳卒中で作られたケガを癒すのに、うまく機能するかを見るため、ハイドロジェル(多量の水を含む親水性高分子)を開発。
それは注入した時に、血管やニューロンが成長する時の土台を作るため、膨張する仕組みになっているという。
また炎症は結果として傷となり、機能する組織の再生を妨げてしまうため、ジェルには血管の成長を刺激する薬や、炎症を抑える薬を入れていたそうだ。
16週後には組織が再生される
そしてマウスの脳にこのジェルを注入してから16週後、脳卒中で作られた空洞には、再生された脳の組織が含まれており、新しい神経の結び付きも確認されたという。
またマウスの食べ物に手を伸ばす能力は改善され、運動も改善された徴候が見られたとしている。ただし現段階では、改善の正確なメカニズムは明らかにされていない。Segura教授は次のように語っている。
「新しい軸索は、実際に機能するでしょう。または新しい組織が、周りにある被害を受けていない脳の組織のパフォーマンスを改善させて行くでしょう」
このジェルは最終的には身体に吸収され、新しい組織にそのままとどまるという。
Segura教授らは今後、脳卒中で傷が出来た後、マウスの脳の組織が長く再生されていくかどうかを調査する計画だとしている。(了)
出典元:UCLA:Biomaterial developed at UCLA helps regrow brain tissue after stroke in mice(5/21)