ブルキナファソでマラリア根絶に向け蚊を用いた実地試験開始されようとするも議論に
マラリアといえば蚊を媒介とする感染症として代表的なもので、年間数十万人から数百万人が命を落としていると推計される非常に恐ろしい病気だ。
そんなマラリアを根絶させるべく、世界初の実地試験がブルキナファソで開始されようとしているが、物議を醸している。
数千もの蚊を放つ
今回行われようとしている実地試験は、遺伝子が組み換えられた数千もの蚊をブルキナファソに放つというものだ。
この研究の目的は“遺伝子ドライブ(gene-drive)”という技術を用いてマラリアを根絶させること。
これにはビル&メリンダ・ゲイツ財団(Bill & Melinda Gates Foundation)にFacebook、間接的には米国国防相も含めた複数の組織が関与しており、大掛かりな実験となっている。
“遺伝子ドライブ”とは?
“遺伝子ドライブ”と聞いてもぴんとこないという方も多いかもしれないが、これは動物が繁殖するにつれて通常よりも速く拡散する人工の遺伝構成物を指す。
そしてこの技術を応用し蚊に特殊な遺伝子を組み込み、特定の個体群にその遺伝子を拡散させることで、マラリアを含む感染症の媒体となる蚊を全滅させ、ひいては感染症をも撲滅させることが出来ると考えられている。
またこの技術を用いれば、絶滅危機に瀕した野生動物を外来種から保護することなどもできるとして、期待がかかっている。
どんな実地試験が行われるのか?
今回の実地試験においては、最大で1万にも及ぶオスの無精子のガンビエハマダラカが放たれることとなる。
ガンビエハマダラカとはマラリアを媒介することで知られるハマダラカの一種であり、その中でも最も悪性の強い亜熱帯マラリア原虫を媒介する危険な存在だ。
この試験の経過は1年にわたり監視され、成果がみられた場合にはさらに無精子のガンビエハマダラカを放ち、最終的には感染症の根絶を目指すとされている。
これについて試験を主導する「Target Malaria」のDelphine Thizy氏は、「我々の着目点は蚊を根絶させることではなく、多くの犠牲者が5歳以下の子供であり、年間43万5000人の命を奪う恐ろしい病気であるマラリアを根絶させることに、遺伝子ドライブ技術が役立つか調査することにある」としている。
現地からは不安の声
しかしこの実地試験に対しては、実施されるブルキナファソの現地団体の間から不安の声が上がっている。
「我々は自分たちの国において危険な実験が行われることを望んでいない。我々は腐敗した政治家や科学者が、我々に代わり決断を下すことを望んでいない」と語るのはこの実地試験に反対する団体の一つである「Terre a Vie」のAli Tapsoba氏。
「もしビル・ゲイツが我々を助けたいのであれば我々が何を望むか聞くべきであり、我々が望まないことをすべきではない」
遺伝子ドライブ技術を用いてマラリア根絶を図るという壮大な実験。
もしその目的が達成され将来的にマラリアを根絶させることができれば素晴らしいことであるが、その一方で遺伝子が組み替えられた蚊を放つということに対するリスク等、実験が行われる現地の人の身になれば不安が尽きないことは確かだろう。(了)
出典:The Guardian:GM mosquito trial sparks ‘Sorcerer’s Apprentice’ lab fears (11/25)
出典:WIRED.jp:「安全な遺伝子ドライヴ」で、進化を超高速化する──米国防総省が研究に巨費を投じる理由(1/26)
出典:現代ビジネス:地球環境を激変させる「SF的遺伝子操作技術」まもなく現実になる(10/5)