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健康リスクか伝統か?フランスでワインを巡り激しい論争が勃発中

健康リスクか伝統か?フランスでワインを巡り激しい論争が勃発中

フランスといえば世界有数のワイン大国として知られるが、今そんなフランスでワインを巡り論争が勃発している。

 

ワインも他のアルコールと変わりなく健康に悪影響?

 

この論争の発端となったのは現政権の連帯・保健大臣を務めるアニエス・ビュザン氏の一言だ。

 

 

ビュザン氏は先日、ワインを“ソフトアルコール”として販売するワイン業界が“二重基準”であると糾弾。

 

業界がワインを他のアルコールと区別していることを指摘し、「国民の健康の観点からすると、ワインもビールもウォッかもウィスキーも何ら違いはない」としている。

 

「フランス人によってワインは安全だと言われ続けてきたが、これによりワインは他のアルコールが受けることのない恩恵に預かってきた。しかしこれは間違いだ。科学的にはワインは他のアルコールと変わりない」

 

さらにビュザン氏は「“ほどほどに”という言葉はもう使われるべきではない。我々が今日、本当に発信すべきメッセージは“アルコールは健康に悪い”ということだ」と釘を刺す。

 

この発言にはマクロン大統領も真っ向から反対

 

一方、ワインの生産量世界一を誇ると共に、消費量でも世界2位につけるフランスでは、ビュザン氏の一言が論争の火種となっている。

 

なんとビュザン氏の発言に対しては、エマニュエル・マクロン大統領までもが支持しない意向を明らかに。

 

マクロン大統領は自らもランチとディナーの際には毎日欠かさずワインを飲むことを明かしつつ、「若者がその他のアルコールやビールによって即座に泥酔してしまうことを考えれば、国民の健康を害することになるが、ワインはこの限りではない」との持論を展開している。

 

さらにワイン業界の目を意識してか、“フランス国民を苛立たせる”ようなワインに関連する法改正は行わないと明言しているという。

 

 

ビュザン氏の発言へ反対の意向を示す政治家は、マクロン大統領だけではない。

 

政府報道官を務めるクリストフ・カスタネール氏までもが、ワインにアルコールが含まれることは明らかであると前置きしつつ、「(ワインに含まれる)アルコールはそれほど強くなく、ワインは我々の伝統、文化であり、国民意識である。ワインは我々の敵ではない」としている。

 

一方、この問題により穏健な姿勢で臨むのはエドゥアール・フィリップ首相だ。

 

フィリップ首相は国民議会の場において、「フランス政府がワイン業界とワイン文化に反旗を翻すような策を講じると本当にお考えなんですか?」と質問。

 

「我々はワイン文化と農家をリスペクトするが、国民の健康を危険に晒しかねない問題が存在していないかのように装うことはできない」

 

 

他方でビュザン氏の発言はワイン業界に大きな衝撃をもたらしている。

 

ワイン業界のロビー団体「Vin et Société」の会長Joël Forgeau氏はフランスのニュース雑誌「L’Express」の取材で、ビュザン氏の発言に“驚いた”としつつ、「このような許容ならない発言は、ワイン生産者の側からすればまさしく挑発だ」という。

 

さらにフランスのワイン学会のメンバーらも、フランスの右翼系新聞「Le Figaro」で声明を発表。

 

ビュザン氏の発言は不公正な“魔女狩り”であるとして、強く非難している。

 

ワインを巡った論争は過去にも

 

数百年以上前から全土でワインの生産と消費を行ってきたフランスでは、ワインは経済においても中心的な役割を果たす。

 

ワインの産地として知られるボルドーには世界で最も大きなワイン専門博物館「Cité du Vin」があったり、さらには休憩の際にワインを飲みながら走ることのできるマラソンがあったりと、ワインは同国の文化にも深く根付いている。

 

 

しかし今回のような議論は今に始まったことではなく、フランスでは以前からワインが健康に与える影響を巡り論争が続いてきていた。

 

2016年には監査局が、フランスで一年に4万9000人もがアルコールに関連する死を迎えていると報告。

 

同国におけるワインとリキュールの人気が引き起こす問題を、フランス政府が無視しているとして糾弾していた。

 

また2014年にもフランス政府は、ワインのボトルに健康被害の可能性を明示する案を考案。

 

しかしこれはワイン業界側からの強い反発により、見送られることとなっていた。

 

だがそんなフランスでも近年はワインの消費量は減少している。

 

成人が一年に飲むワインの平均量は1965年に160リットルであったのに対し、近年ではそれが44リットルまで落ち込んでいるという。

 

また1980年にはワインを日常的に飲むとする人がフランス国民の51%を占めていたのに対し、2016年にはわずか16%になってしまっており、さらにこの傾向は15歳から34歳までの若い世代で強くなっているとのことだ。

 

一方、最近フランスでは一日にグラス1~2杯の赤ワインの飲酒は体に良いという見解が定着しつつあったといい、そのような考え方もワインの消費量減少に影響を与えていたと考えられるそうだ。

 

ワイン一つでここまで国内が二分されるかのような状況が生まれてしまうというのは、やはりフランスのお国柄だろう。(了)

 

 

出典元:The Local France:Health risk or national treasure? Why France is warring over wine (2/26)

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