インドで働く数百万人の家庭内労働者の実態とは?政府が待遇改善の法案を作成
家政婦など家庭内労働者として働く人々のため、インド政府が彼らの待遇を改善する法案を提出した。
「生きるために必要最小限の賃金」
インドでは就労時間が決められず、雇用主の都合のいい時間に働かされている、「ゼロ・アワー・コントラクト」と呼ばれる家庭内労働者が数百万人いるという。
彼らの約80%は女性で、家事や雑用などのため裕福な家庭に雇われ、雇用保障もなく低賃金で働かされているそうだ。
彼女らの多くは貧しい農村地域の出身で、読み書きもできず、計算や算数も苦手。また家族と離れ、住み込みなどで働いているが、雇い主から暴力やハラスメント受けるなど、非常に弱い立場に置かれているとか。
そんな女性の1人、Seemaさんは2年間も雇用主から暴力を受け続け、奴隷に反対する人権団体のパートナーである「National Domestic Workers’ Movement」に助けを求めたという。
Seemaさんは取材に対し、次のように語っている。
「2年以上もしてきた労働に対して、生きるために必要な最小限の賃金以外、私には支払われていません。私の雇用主は私を怒鳴り、侮辱し、そして私に暴力を振ってきたのです」
このためインド政府は、このような境遇に置かれている彼らの労働環境や待遇を改善させるための法案を作成したという。
年金や出産休暇を保証、暴力からも守る
その法案は労働大臣によって提案されたのだが、そこではまず家庭内労働者に決められた最低賃金が支払われることが明記されているという。
また法案には、彼らに年金や出産休暇、健康保険などの社会保障給付を保証し、雇用主による暴力から保護することも盛り込まれているそうだ。
インドの労働大臣は「これは法律で大切に守られた労働者の権利を保証する政策や計画、適用される法令の範囲を、明らかに効率的に拡大することになるだろう」と述べている。
また労働・雇用省は現在、住み込みだけでなくパートタイムやフルタイムの家庭内労働者についても、国の政策を規定することを検討しているという。
基準が明確に示されていないとの批判も
しかし専門家の間では、この法案の言い回しが余りにも漠然としており、支払いや給付に関する詳細やタイムラインなどが示されていない、という意見もあるようだ。
実際、労働者を支援してきた人々は、病気や休みの日の有給休暇の導入と同時に、月の最低賃金が9000ルピー(約1万5700円)になるよう求めてきたという。
人権保護団体「Anti-Slavery International」は取材に対し「インドでは400万人以上の労働者が、規則で定められていない家庭内で雇われています。しかも他の業界に比べて給与は3分2しかないのです」と語っている。
家庭内労働者の権利に詳しい、非営利組織「Stree Jagruti Samiti」のGeeta Menon氏は取材に対し次のように語っている。
「法案には、どのように目的を叶えるかという明確な基準がほとんどありません。政府も雇用主も労働者に権利や保証を受ける資格があるということを納得していないのです。実際、雇用主らは彼らを労働者として認めていません。政策それ自体が弱いのです。雇用主に課される義務もありません。私たちはそれが効果的に実行される機会を目にすることはないでしょう。家庭内労働者に対する私たちの態度が変わらない限り、彼らの状況は改善しないでしょう」
家庭内労働者と奴隷との線引きは非常に曖昧だが、法律で規制しない限り、彼女らが陥っている状況は限りなく奴隷に近いものと言えるのかもしれない。(了)
出典元:INDEPENDENT:India to introduce minimum wage for millions of workers(10/17)