米最高裁が「人種考慮」を違憲と判断、判事の中には制度の恩恵を受けた人物もいた!
人種を考慮した大学の入学選考を行う制度、「アファーマティブ・アクション」。この制度が、アメリカの連邦最高裁で違憲と判断された。
しかし違憲と判断した判事の中には、この「アファーマティブ・アクション」で、現在の地位に就いた人物もいたという。
6対3で「違憲」と判断
「アファーマティブ・アクション」とは、大学内の多様性を確保する手段として、人種的マイノリティー(少数派)を選考で優遇する、「積極的差別是正措置」のこと。
このような措置はハーバード大学やノースカロライナ大学で進められてきたが、アメリカの最高裁は6月29日、この制度が法の下の平等を定めた憲法修正第14条に「違反している」と判断した。
「アファーマティブ・アクション」に関しては、ジョン・ロバーツ最高裁長官が提起し、9人の判事がそれぞれ投票した後、6対3で「違憲」との判断が下された。
「違憲」と判断した6人は保守派で、「違憲ではない」とした3人はリベラル派の判事だったが、違憲との判断をした判事の中には、この制度の恩恵を受けてきた人物がいるという。
「違憲」とした黒人の判事
その人物とは、黒人であるクラレンス・トーマス判事だ。彼はまだ人種差別の残るジョージア州の片田舎で貧しく育ち、やがて寄宿学校の神学校のクラスで唯一の黒人の生徒になったという。
1968年にはホーリークロス大学への入学を勧められて、人種的マイノリティのための奨学金が与えられ、1971年にはイェール大学ロースクールに入学したそうだ。
そしてトーマス判事は1991年の上院承認公聴会で、「私が在籍していた間のイェール大学側の努力は、適格と思われるマイノリティに手を差し伸べ、門戸を開くことでした」と証言していた。
しかし今回、彼は違憲との判断を下した理由について、次のように語っている。
「私は、私の人種と差別に苦しむすべての人々に降りかかっている社会的、経済的荒廃を痛感しているが、この国が、独立宣言と合衆国憲法に明確にうたわれている原則、すなわち、すべての人は平等につくられ、平等な市民であり、法の下で平等に扱われなければならないという原則に従うことを、永続的な希望として抱いている」
「違憲ではない」と判断した女性判事
一方、「違憲ではない」と判断したソトマイヨール判事も、「アファーマティブ・アクション」の恩恵を受けた1人だ。
彼女は、ニューヨークのブロンクスからイェール大学へと進み、その後ラテンアメリカ系初、そして唯一の最高裁判事となった。
彼女は、大学入試における人種考慮の制度を、1960年代の公民権運動の延長線上にあると考えており、昨年も次のように述べていた。
「私が育った当時、ブロンクスは米国で最も貧しい地域のひとつでした。しかし、そのような試練があったからこそ、私は今があるのです。学校では『私たちには多様性がない。異なる背景を持つ人々に機会を与えていない』と言われてきました。このことは社会にとって重要なことです。アファーマティブ・アクションがなければ、私は良い教育を受けるというレースに参加することすらできませんでした」
今回の最高裁の「違憲」との判断について、ソトマイヨール判事は、多数派はいまだに世界にへばりつく差別に対して故意に無知で行動しているとし、次のように反対意見を述べた。
「今日、この法廷は、何十年にもわたる先例と重要な進歩を覆し、邪魔をしています。このような重要な利益を達成するために、人種を大学入試に限定的に利用することは、もはやできないとしています。(略)裁判所は、民主的な政府と多元的な社会の基盤である、教育における人種的不平等をさらに根付かせることによって、憲法が保障する平等保護を破壊している。法廷での意見は法律にも事実にも根拠がなく、憲法修正第14条に具現化された平等のビジョンに反するものであるため、私は反対します」
今回の判決が出るまで、最高裁は40年以上にわたって、学校がどの学生を受け入れるかを決定する際に人種を考慮することができるとし、キャンパス内の多様性に富んだ学習環境はすべての学生に利益をもたらすという考えを支持してきたという。
ただ世論調査では、アメリカ人の大多数が、大学キャンパスにおける多様性の促進を支持する一方で、入学志願者の人種を明確に考慮することに反対する意見もあるという。
このような意見の分裂があることから、カリフォルニア州やミシガン州のような民主党支持者が多い州でも、何年も前に「アファーマティブ・アクション」が禁止されたそうだ。(了)
出典元:ABC News:Justices Thomas and Sotomayor, who say they benefitted from affirmative action, divide on its future(6/30)