現場の肉声 武漢の看護師が医学誌に掲載し、後に撤回した公開書簡とは
中国・武漢で新型コロナウイルス患者の看護にあたっている2人の看護師が2月24日、医学誌「The Lancet」に公開書簡を掲載した。
後になってこの公開書簡は撤回された。理由は、看護師らが直接見ていないことが書かれているからとのこと。撤回は2人の看護師の希望によるものと伝えられている。その公開書簡に書かれていたのは、未知のウイルスに晒される看護師たちの、悲痛な叫びとも言えるものだった。
「The Lancet」のサイトには、「RETRACTED(撤回されたもの)」という但し書き付きで、まだ原文(英語)が掲載されている。
防護具の痛み
公開書簡を書いたのは、広州医科大学付属病院のYingchun Zengさんと、中山大学孫逸仙記念病院のYan Zhenさん。2人とも普段の職場から離れ、武漢で新型コロナウイルスの患者を看護している。
武漢の医療現場では、防護服やマスク、フェイス・シールド(顔全体を覆う透明なカバー)といった防護具が極端に不足しており、「ますます酷い、困難な」状況に陥っていると2人は書く。以下は掲載された文章からの抜粋だ。(原文は英語)
ゴーグルはプラスチック製で、それを病棟内で洗い、滅菌して、繰り返し使わなければなりません。そうするうちに(透明な部分が)曇って、向こうが見えなくなります。
また、手洗いやマスクといった、普段ならなんでもないものが看護師たちに痛みをもたらしている。
頻繁に手を洗うので、同僚の中には、手全体が痛々しい皮疹で被われてしまう人がいます。
また、N95マスクを長時間着け、さらに防護具を着けるので、摩擦と圧迫で耳や額に潰瘍ができる看護師もいます。
N95マスクは米国のN95規格をクリアした微粒子用マスクのことで、主に医療従事者が着用する。マスクとの摩擦で、看護師たちの口の周りに水泡ができるのは普通のことらしい。文章はさらに続く。
患者と話す時にマスクを着けていると、こちらの声がくぐもるので、特別に大きな声を出さないといけません。
手袋は4重にはめているので、細かい作業が一苦労です。医療用具をパッケージから出すのも大変です。患者に注射1本打つのが大仕事になるのです。
防護服の脱ぎ着にも意外に時間がかかるという。
防護服を着たり脱いだりする時間とエネルギーを節約するために、私たちは隔離病棟へ入る2時間前から、飲んだり食べたりしないようにしています。
これはおそらく、トイレに行かなくて済むようにということだろう。
中には過重労働のせいで「低血糖や低酸素症で意識を失う看護師もいる」と書かれている。
看護師の不安と恐怖
こうした肉体的なことだけでなく、精神的にも看護師たちは苦しんでいる、と2人は書く。「無力感、先行きの不安、恐れ」が看護師たちの心に取り憑いているようだ。
経験の長い看護師は時間を見つけて同僚をいたわり、みんなの不安を和らげようとしています。けれど、そんな古参の看護師でさえ、泣き出す時があるのです。
理由はおそらく、私たちがこれから先いつまでここに居れば良いかが分からないからでしょう。私たちはCOVID-19の感染可能性が最も高い、最高リスク群なのです。
武漢には、中国全土から1万4000人の看護師がボランティアとして来ているそう。それでも人数は足りず、YingchunさんとYanさんは国外に助けを求め、最後をこう締めくくる。
私たちはまだ助けを必要としています。国外の看護師や医療スタッフが、私たちの戦いを助けるために中国に来てくれることを願っています。
COVID-19の流行が早く終わりますように。そして、世界の人々が健康であり続けますように。
(了)
出典元:Intelligencer:Wuhan Nurses Pen Letter in Medical Journal Asking for Help to Fight Coronavirus(2/26)
出典元:The Guardian:Wuhan nurses’ plea for international medics to help fight coronavirus(2/26)
出典元:The Lancet:RETRACTED: Chinese medical staff request international medical assistance in fighting against COVID-19(2/24)