新型コロナウイルスに感染後、嗅覚障害に陥るケースが多く報告されたが、その原因はどんなことが考えられるのだろうか？米メディアのABC Newsが報じている。

 

まだ完全に原因は分かっていない

 

ABC Newsによれば、新型コロナに感染した後、推定値で患者の96％が多少あるいは完全に嗅覚を喪失すると言われているという。

 

ただし、医学用語で「無臭症」と呼ばれるこの症状はたいてい一時的なもので、患者の多くは数週間で感覚を取り戻すとも言われているそうだ。

 

研究者たちは、ウイルスがどのようにして嗅覚障害を引き起こすのか、まだ完全に理解していないが、現時点でいくつかの説が唱えられている。

 

過剰な粘液の生産が原因か？

 

そもそも新型コロナに感染した人々が経験する嗅覚障害は、急性と慢性の2種類に分けられるという。

 

急性とは、新型コロナに感染して、鼻水や鼻づまりなど、鼻腔が炎症を起こすような症状が出ている可能性がある場合を指す。

 

これについてオハイオ州にあるクリーブランド・クリニックの耳鼻科医、Raj Sindwani博士は次のように語っている。

 

「嗅ぐべき粒子は鼻を通って、神経の末端がある鼻の上に行かなければなりません。しかし、もし鼻の裏側が腫れて、過剰な粘液の生産がある場合は、明らかにこの粒子は鼻の上に届くことはないでしょう」

 

また新型コロナが治った後に起きる慢性的な嗅覚障害の場合、神経に炎症が起きたり、神経に傷がついたり、ウイルスが活動している間に神経末端が傷ついたりした場合が考えられるという。

 

遺伝子が関与している説

 

もう1つの説は。遺伝子が関与しているというもの。1月17日にNature Genetics誌に発表された研究によると、新型コロナ患者の場合、2つの嗅覚遺伝子の近くに遺伝子座（ローカス：染色体上の遺伝子の特定の場所）があり、これが無嗅覚症と関連があることがわかったという。

 

しかしながらこれらの遺伝子のリスク要因は、嗅覚を失う確率を11％しか伸ばさなかった。つまりこの遺伝子を持っていても嗅覚を失わない人もいれば、その逆の人もいたとか。

 

これにより遺伝子がリスクに寄与していることは示唆されたが、それが嗅覚喪失の原因であるとは示唆されておらず、むしろその役割が小さいことが示されたという。

 

「サステンタキュラ細胞」がダメージを負った？

 

2020年7月に発表されたハーバード大学医学部の研究では、匂いを識別する嗅覚ニューロンを補助する「サステンタキュラ（Sustentacular）細胞」に、COVID-19がダメージを与える可能性が示されたという。

 

この研究の上席著者であるSandeep Datta博士は、「サステンタキュラ細胞は、損傷を受けた場合でも、再生してその機能を回復する能力があります」と述べている。

 

しかし、それには数週間から数カ月かかることがあり、多くの人が数カ月間嗅覚を回復できないのはそのためかもしれない、と指摘している。

 

脳の一部で炎症と出血が起きている可能性

 

さらに、2020年12月の米国立衛生研究所の研究では、嗅覚の喪失は、新型コロナが「嗅球（olfactory bulbs）」と呼ばれる脳の一部で、炎症と出血を引き起こすことに起因する可能性が示唆されたそうだ。この「嗅球」は匂いの感覚を制御する器官と言われている。

 

ペンシルべニア大学・耳鼻咽喉科教授のRichard Doty博士はABC Newsに対し、次のように語っている。

 

「ウイルスが嗅球に侵入するかどうかはまだ不明ですが、他の多くのウイルスが侵入します。ヘルペスウイルスでさえ、嗅覚経路を通って脳に入ることができるのですから、可能性がないわけではありません。しかし、嗅球が嗅覚障害に関与しているかどうかについては、まだ判断がつきません」

 

Raj Sindwani博士は次のように語っている。

 

「もしかしたら、どちらか一方ではなく、いろいろなことが関係しているのかもしれません。ある患者さんでは遺伝子が原因かもしれないし、別の患者さんではサステンタキュラ細胞が原因かもしれない。もしかしたら、遺伝子が匂いを取り戻させない理由になっているのは、サステンタキュラ細胞かもしれないのです」（了）

 

 

出典元：ABC News：How does COVID-19 cause people to lose sense of smell? And how many regain it?(1/23)