ナチスが略奪した絵画を元高官の娘が販売、その資金をユダヤ人支援に用いる活動が話題に
ナチス高官の娘として生まれ父により収集された絵画を受け継ぐも、それらを販売して得た利益等をユダヤ人女性支援のために用いる女性の活動が注目を集めている。
戦後も生きたナチス高官の娘
この活動により注目を集めるのは、緑の党の政治家でNGO団体「Zurückgeben」の創設者であるHilde Schrammさん(82)。
Daughter of Hitler’s war minister to be honored with German-Jewish award: Hilde Schramm, who lives in Berlin, was a former Green Party politician in the city. In 1994, she founded the Zurückgeben Foundation, whose name can be translated as… https://t.co/YtihRfsaDY JPost pic.twitter.com/KHWHC22FcH
— Jewish Community (@JComm_NewsFeeds) January 21, 2019
Schrammさんは今回の活動により今月21日、ユダヤ人の記憶を留めることに尽力した非ユダヤ系ドイツ人に贈られる「German Jewish History Award」を受賞している。
一方でSchrammさんの父は、建築家でナチス時代に軍需大臣を務めたことで知られるアルベルト・シュペーアだ。
アルベルト・シュペーアは第二次大戦後に生き残ったナチス関係者の中で、最もヒトラーと親しかった人物の1人。
ナチス関係者の中でも自らが行った罪に対する謝罪の言葉を述べた人物として知られており、戦後は強制労働による労働力の確保を促進した罪により20年の禁固刑に処されている。
他方でアルベルト・シュペーアは強制収容所等の建設にも関わっていたとみなされていながらも、ホロコーストの存在については知らなかったとの主張を貫いており、この主張の真偽については多くの議論がなされてきた。
父の残した遺産を誰かのために役立てる
一方、第二次大戦終結時にまだ9歳であったSchrammさんは、ナチスによるユダヤ人迫害についてはよくわかっていなかったようだ。
しかし父が収集した絵画を受け継いだSchrammさんは、それらを保有することは望まなかったという。
その代わりに彼女が思い付いたのは、遺産を誰かのために役立てるということだった。
そのためSchrammさんは1994年、NGO団体「Zurückgeben」を創設。
ドイツ語で“Zurückgeben”は“返還する”、あるいは“賠償する”といった意味を持つ言葉。そんな“Zurückgeben”という言葉を団体名として選んだ理由として、Schrammさんは同団体の目的が第二次大戦時に語られることのなかったユダヤ人に起因する所有物や芸術についての関心を高めることにあるため、としている。
ナチスがヨーロッパに居住するユダヤ人の所有していた財産や芸術作品を略奪したということは、今日では広く知られたことである一方、ユダヤ人から略奪されたものの中で注目が集まるのは高価な絵画や彫像ばかり。
しかしZurückgebenにおいては、高い価値のある芸術品のみならず平凡でありふれた物品に対しても目を向け、ドイツ人に対してそれらが一体どこから来たものであるのかを考えさせることに重きを置いているという。
130を超えるユダヤ人女性のプロジェクトを支援
このような目的によりZurückgebenが創設されて以来、団体には数百人にも及ぶドイツ人からの寄付品が集まってきたという。
また集まった寄付品を売却することで、団体は50万ユーロ(約6200万円)もの資金を創出することに成功。
この資金を用い、Zurückgebenでは子供用の劇場や展示会、映画などといった130を超えるユダヤ人女性が率いるプロジェクトの支援を行ってきたとのことだ。
Zurückgebenの活動が拡大しより多くのユダヤ人女性らのプロジェクトが支援されると共に、より多くの人が第二次大戦時にナチスが行ったユダヤ人に対する残虐行為に深く思いを馳せることを願うばかりだ。(了)
出典:Deutsche Welle:German Jewish History Award goes to Hilde Schramm(1/21)
出典:NBCNews.com:Nazi’s paintings now fund foundation for Jews(1/21)