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チェルノブイリ原発事故によって捨てられた犬たち、その生き様が胸を打つ

チェルノブイリ原発事故によって捨てられた犬たち、その生き様が胸を打つ
Twitter/Julie McDowall

チェルノブイリ原子力発電所における事故から四半世紀。人が住まなくなった同地には、かつての住人達が所有していた犬やその子孫が今も数多く残されていることをご存知だろうか。

 

チェルノブイリ原子力発電所の立ち入り禁止区域付近を取材したGuardianが、その存在を伝えている。

 

原発周辺には約300匹の野良犬が存在

 

Guardianの記者らが立ち入り制限区域の付近の森を歩いていた時、まだら模様のある一匹の犬がガイド役の男性、Igorさんにまとわりついてきた。

 

後にわかったことによると、Igorさんは以前からその犬の存在を知っていたという。

 

「彼は立ち入り禁止区域に住む野良犬だ。彼の母親は狼に殺されてしまったため、ガイド達で世話をし、棒を投げたり遊んであげたりした。彼はまだほんの子供だ…」

 

Igorさんによると、彼には名前が付けられており、Tarzanというそうだ。

 

Solo East

 

しかしこのような野良犬はTarzanだけではない。

 

2600平方キロメートルにも及ぶ立ち入り禁止区域の周辺には、ヤマネコや野ウサギ、狼といった野生動物のほか、約300匹ほどの野良犬が存在しているという。

 

連れて行くことを許されず殺された犬たち

 

元々は愛玩動物として飼っていたにも関わらず、原発事故の発生によりペットを見捨て家を出ていくとは、なんて非情なことをするのだろう、と思われるかもしれない。

 

しかしこれは仕方のないことであった。

 

1986年に事故が発生した後、住人たちはプリピャチとその周囲の村から離れざるを得なくなったが、その際安全上の理由により、飼っていた動物を連れて行くことは許されなかったという。

 

 

ある元住人は、当時の犬たちの哀れな様をこう語る。

 

「犬たちは雑種からシェパードまで、遠吠えをしたり、(村を出る)バスの中へと乗り込もうとした。しかし軍人らは犬たちを外へと追いやり、蹴ったりした。犬たちは長い間バスの後を追いかけてきた」

 

また事故発生により自宅を離れたある家族は、自宅のドアにこんなメモを貼り付けて去っていったという。

 

「Zhulkaを殺さないでください。彼女は良い犬なんです」

 

しかしそこに慈悲はなかった。

 

軍は残された動物たちを殺すために隊を送り込み、多くが殺されてしまったという。

 

放射能の影響により寿命が縮んだ犬たち

 

それでも中には生き残ったものもおり、彼らは立ち入り禁止区域の周辺で繁殖していった。

 

だがチェルノブイリ原子力発電所の周辺で生きるのは、動物たちにとっても容易なことではない。

 

ウクライナの厳しい冬を暖を取れる場所もなく過ごさなければならないだけではなく、高濃度の放射能を浴び続けることにより彼らの寿命は縮み、6歳まで生きることができる犬はほんのわずかであるという。

 

しかしそんな厳しい状況においても、犬たちはたくましく生きている。

 

人間が食料を持つことを知る一部の犬たちは、「Desyatka」という名の近隣のカフェに集まり、訪れる人々から食料を貰うこともあるという。

 

さらに立ち入り禁止区域との境界に位置する検問所の周辺には、守衛によって犬のため築かれた小屋まであるそうだ。

 

チェルノブイリ原発周辺では一般の観光客向けのツアーも展開されており、その際には訪れる人が手で犬に触れることを禁じる決まりはないという。

 

しかし観光客向けのツアーを手掛ける旅行会社Solo EastのガイドNadezhda Starodubさんは、「一部の人々は犬たちが汚染されていると考え、触れようとしません」と語る。

 

その一方では、「多くの場合、来訪者は犬たちを可愛いがっています」とも話している。

 

犬たちのためチェルノブイリ原発内には動物病院も

 

犬たちに餌をやり、世話をして可愛がるのは周辺に暮らす人々や観光客だけではない。

 

米国の非営利団体で、産業事故等によって汚染された地域を支援するClean Futures Fundもそんな存在の一つだ。

 

 

同団体は原発付近で暮らす野良犬や動物のため、チェルノブイリ原子力発電所内に建設されたものも含む3つの動物病院を開設。

 

緊急処置が必要な動物のみならず、狂犬病や肝炎予防のためのワクチンの接種等も行っているという。

 

さらには病院では去勢手術も行っているが、これについてClean Futures Fundの共同創設者の一人であるLucas Hixsonさんはこう語る。

 

「立ち入り禁止区域にいる犬をゼロにしたいわけではないが、数を減らすことにより、餌をやったり長期間、世話をすることができるようになる」

 

このような取り組みはチェルノブイリに暮らす野良犬だけでなく、その周囲で働く人々や訪れる人の安全をも守っているといえるだろう。

 

一昨年より、原発全体を石棺で覆う作業が開始されているチェルノブイリ原子力発電所。

 

その悲劇はまだ終わったわけではないが、過去から取り残された犬たちが少しでも健やかで幸福な生活が送れることを祈るばかりである。(了)

 

出典元:the Guardian:Meet the dogs of Chernobyl – the abandoned pets that formed their own canine community(2/5)

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