北極圏の氷に閉じ込められた汚染物質から、古代ローマ文明の様子が明らかに
グリーンランドの氷から検出された汚染物質により、過去の文明の経済活動などが見えてきたとして、注目されている。
鉄器時代から中世までの様子を物語っていた
この調査を行ったのはアメリカのネバダ州にある砂漠調査研究所や、イギリスのオックスフォード大学など、さまざまな分野に渡る研究チーム。
彼らは、北極圏のグリーンランドにある氷床から、氷の柱のサンプルを抽出。そこに含まれる鉛の汚染物質について調査した。
その結果、鉄器時代後期(紀元前1000年)から中世(5世紀から15世紀)における、ヨーロッパや地中海での経済活動や歴史的な出来事が見えてきたという。
砂漠調査研究所の水文学者であるJoe McConnell博士は、次のように語っている。
「グリーンランドにおける鉛の汚染物質によって、過去に起きた疫病や戦争、社会不安、そして古代ヨーロッパにおける帝国の拡大について、非常に厳密に追跡できることがわかったのです」
汚染物質が数千キロも離れた場所にたどり着く
氷のサンプルに含まれていた鉛の汚染物質は、かつては空中に漂っており、文明が発祥した場所から数千キロもはなれたグリーンランドにまで到達。やがて地表に落下し、そこに雪が降り積もって氷に閉じ込められ、次第に層になっていったという。
またこの鉛の汚染物質は貨幣の鋳造に使われた銀の生産によって、生まれたものと考えられるそうだ。
そして最初に汚染物質が急上昇したのは紀元前900年頃。その時期は、ちょうど中東(東地中海)の海で暮らしていたフェニキア人らが、西地中海にまで貿易ルートを拡大していた頃とみられている。
その後、汚染物質の放出は徐々に増加。その頃には、ローマ人や古代カルタゴの人々が鉱石の採掘作業を増やしていたとみられ、ローマ帝国の時代には汚染がピークに達していたという。
平和で安定していた時代に最も高い数値
特にパクス・ロマーナ(紀元前27年から紀元後180年)と呼ばれる、約200年間も続いた平和な時代には、経済成長が続いたためか、汚染物質は最も高い数値を示したそうだ。
しかし紀元後165年には、ローマ帝国に天然痘やはしかなどの「アントニン疫病」が発生。この疫病はその後、15年も続いたが、これにより汚染物質の放出量は減り、500年後の中世初期まで増えなかったとされている。
このような調査は約20年前にも行われたが、今回はより正確な記録をとるため、最新技術を使い、2万カ所から採取されたサンプルを測定し、シミュレーションを行ったという。(了)
出典元:INDEPENDENT:Rise and fall of ancient civilisations revealed by lead pollution in Arctic(5/14)
出典元:University Of Oxford:Economic health of the Roman Empire revealed in analysis of lead in ice core from Greenland(5/15)