3Dプリンターで人の心臓を作ろうとするスタートアップ企業の取り組みが話題に
3Dプリンターによる印刷技術が目覚ましい発展を遂げる近年、人の心臓まで3Dプリンターによって作成しようとしているスタートアップ企業の取り組みが注目を浴びている。
バイオプリンティングの技術により患者の細胞から心臓を作成
この取り組みを行っているのはBioLife4Dという米国のスタートアップ企業。
3Dプリンターにより細胞から臓器を作成する「バイオプリンティング」の技術では、患者自身の細胞を用いることにより、生体組織や骨を3次元で“プリント”することが可能だ。
昨年にはこの技術を応用し、スペインのマドリード・カルロス3世大学の研究チームが3Dプリンターから人の皮膚を作成する技術をも開発している。
BioLife4Dの共同設立者でCEOを務めるSteven Morris氏は「我々は患者自身の細胞を使用し、必要な種類の細胞へと変化させている」といい、患者自らの細胞から心臓を作成する技術の開発に取り組んでいるという。
3Dプリンターで心臓を作成するプロセスとは
3Dプリンターから人の心臓を作成するプロセスはこうだ。
まずMRIにより患者の心臓をスキャンすると共に、血液のサンプルを採取。
その後血液サンプルの中に含まれる細胞を幹細胞に変え、さらに心臓の細胞へと変化させる。やがて3Dプリンターへと送信されたその細胞から、一層ずつ心臓が作成されていく。
そして完成すると人の体内を模した“バイオリアクター”という装置に心臓を移し、鼓動が始まるまで待つという。
心臓移植が必要な患者に開ける可能性
Morris氏は、この技術は心臓移植を必要とする患者にとっての新たな治療法になるとみる。
3Dプリンターによって心臓を作成する技術は、心臓に問題を抱えながらもドナーが見つからない患者を救うことが出来ると共に、自らの細胞から心臓を作成することにより、心臓移植後に拒絶反応が起こることを防ぐこともできるという。
それだけではなく、この技術を応用すれば、心臓のみならず腎臓や膵臓などその他内臓器官の移植も行える可能性があるという。
「我々は人類の歴史において、文字通り全てのことがついに可能となる瀬戸際にいる」
一方、米国では4人に一人が心臓病に関連した病気で亡くなっており、男女共に最も多い死亡原因となっているという。
Morris氏が人の心臓を作成するという困難な技術の開発に乗り出した理由としても、心臓病に関する統計の存在を挙げている。
米国の保健福祉省によると、2016年に米国では3000件以上もの心臓移植が実施されているという。
「我々は心臓の作成から始めることに本気で重点を置いている。その理由としては、信じがたいほどの範囲と規模だ」
3Dプリンターで作成された臓器の移植には遠い道のり
他方で、人の心臓のレプリカはこれまでにも3Dプリンターによって作成されてきた。
これを用いることによっては、執刀医が心臓移植の手術を行う前に、シュミレーションを行うことが可能になるという。
しかし医学界においては3Dプリンターによって作成された臓器を移植するという段階には至っていない。
BioLife4Dは今年中には人の心臓の縮小版を完成させたいとしているが、Morris氏は人の実際の心臓と同じサイズのものを作成するにあたっては、これまで予測してこなかった障壁が立ちはだかる可能性を懸念している。
「何を知らないのかということがわからないため、確かなことはわからない」
人の心臓を3Dプリンターによって人工的に作成するという技術が完成すれば、医学界に大きな道が開けることは確かだ。開発段階のこの技術が完成し、実用化される日がくることを期待したい。(了)
出典元:USA TODAY:This startup wants to create a 3D-printed heart(2/21)
出典元:Fast Company:Working, Beating Hearts Will Soon Be 3D-Printed From Patients’ Own Cells(2/1)