軟禁状態だった劉暁波さんの妻、劉霞さんが中国を出国、ベルリンに到着する
北京市の自宅で、中国当局に法的根拠のないまま軟禁状態に置かれていた劉暁波さんの妻、劉霞さん(57)。彼女が10日午前(日本時間同)、フィンランド航空の旅客機で北京を出発し、同日(日本時間同日深夜)ドイツの首都ベルリンの空港に到着した。
劉暁波氏と妻の劉霞さん
故・劉暁波氏とは1989年に起きた天安門事件の指導者的立場にあった1人で、中国の民主化運動の象徴的な存在とされている。
そして2008年に、中国共産党による一党独裁の廃止などを呼びかけた「〇八憲章」の発表直前に拘束され、国家政権転覆扇動罪で禁錮11年を言い渡されたという。
しかし服役中の2010年にノーベル平和賞を受賞。その後、末期がんと診断され、昨年5月には当局の監視のもと、入院先の遼寧省瀋陽市の病院で死去した。事実上の獄中死とみられている。
入院中、劉暁波氏は妻の劉霞さんと共に海外での治療を希望。ドイツ政府が受け入れを表明していたが、その願いはかなわなかった。
しかも劉氏が2010年にノーベル平和賞を受賞して以降、中国政府は2人を厳しい監視下に置き、夫の劉暁波さんが亡くなった後も、劉霞さんを自宅に軟禁し続けたとされている。
支援者によると、劉霞さんは北京市内の自宅に1人で暮らしていたが、ごく親しい友人を除いて会うことはできず、精神的に不安定な状態が続いていたという。
このためドイツ政府などは、劉霞さんが法的な根拠がないまま自由が奪われている上、健康状態も悪化しているとして、事態の改善を訴えており、今年5月にメルケル首相が中国を訪れ李克強首相と会談した際には、李首相もドイツ政府と対話する考えを示していたそうだ。
そして今回、劉霞さんは中国当局から出国を許可され、10日に北京を離れドイツの首都ベルリンに到着した。写真でもドイツの空港で大きく手を広げて、喜びを表す姿が映っている。
中国外務省の華春瑩報道官は10日の記者会見で「劉霞氏は、本人の意向に基づいて病気の治療のためドイツに向かった」と述べて、出国したことを認めた。
劉霞さん、詩で苦境訴える
詩人としても知られる劉霞さんだが、NHKによれば今年3月には日本語に翻訳された彼女の詩集が出版されており、そこには中国当局の厳しい監視下に置かれている間の思いをつづった詩が含まれていたという。
また詩集には、現代日本を代表する詩人、谷川俊太郎さんの「無題」という作品の形式にならった「無題-谷川俊太郎にならい-」(2016年)という詩も含まれており、「もううんざり 見えるだけで歩けない道 もううんざり 汚れた青空 もううんざり 涙を流すこと」などと、自由を制限され続ける苦しい胸の内を表現していたそうだ。
劉霞さんは心身の状態が悪化していると指摘されており、友人が今年5月に公開した電話のやり取りの音声では「携帯電話もパソコンもない」と嘆く声や泣き声が記録されていた。
また産経新聞は、劉霞さんが友人に電話で「(中国当局は)私にここで暁波の代わりに刑期を務めさせようとしている」と泣きながら訴えており、重いうつ症状を抱えていたと伝えている。
友人「出国できたことはうれしい」
劉暁波氏とともに中国共産党の一党支配を批判した、広東省広州の作家、野渡氏はNHKの電話取材に対し、「劉霞さんが自由になることは劉暁波氏の最後の望みだったので、出国できたことはうれしい。長期間、軟禁され、体調や心理状態がよくないので休んで療養してほしい」と述べて、劉霞さんが出国したことを喜んでいたという。
また劉氏夫妻の支援を続け、自らも中国当局に監視・軟禁されている北京在住の民主活動家、胡佳(こ・か)氏(44)は産経新聞の取材に対し「非常に、非常にうれしい」と率直な思いを語る一方、劉霞さんの出国は「劉暁波氏の死と引き換えの形で実現した」とも指摘。また今回の出国実現は、ドイツの外交関係者による努力が大きく影響していると強調している。
中国政府の思惑とは?
REUTERSによれば、2010年から続いた劉霞さんの軟禁は中国の国内法上も違反の可能性が高く、法治の徹底をうたう習近平指導部にとって汚点だったという。
そのため習指導部は劉暁波氏の一周忌を前に、国際的イメージの一層の悪化を避けるため出国を認めたと伝えている。
また産経新聞によれば、支援者の多くは、劉霞さんの解放を一周忌後の8月と予測していたという。そして中国当局が解放を早めたのは、一周忌にあたって中国の国内外で劉暁波さんの追悼活動や劉霞さんの支援活動が拡大する兆しがあったため、「劉霞さんを出国させれば政府への反対行動を抑制できる」(胡氏)と判断した可能性があると報道している。
もう一つの背景は、今月上旬に米中両国がお互いに追加関税を課す措置に踏み切り、貿易戦争が泥沼化の様相を見せていることだという。中国政府は米国を「保護主義、一国主義」と非難し、欧州連合(EU)などの国際社会に「共闘」を呼びかけており、ドイツに譲歩することで、対米政策を有利に進める狙いもあるという見方を示している。
このことは他の人々も認めており、野渡氏はNHKの取材に対し、劉霞さんが突然出国したことは李克強首相のドイツ訪問と関係していると指摘した上で、「アメリカとの貿易戦争に向き合う中国政府は、ヨーロッパの国々の支持を得るため、この問題で譲歩したのだろう。今月13日で劉暁波氏が亡くなって1年になることは大きくは影響していない」と述べて、米中の貿易摩擦が激しくなっていることが劉霞さんの解放につながったのではないかという認識を示した。
その上で「国際社会やメディアの関心がなければ、劉霞さんは自由になれなかったので感謝したい。ただ劉霞さんが出国したことは特別な事例であり、中国の社会全体の自由度が改善したことにはならない。劉暁波氏の最後の望みは、劉霞さんが自由を得ることと中国の民主化を進めることなので、国際社会は引き続き、中国の人権をめぐる状況に関心を持ち続けてほしい」と訴えたという。
事前に出国許可を示唆、弟は人質か?
朝日新聞によれば、中国政府は劉霞さんが出国して当局の対応を批判すれば、習近平指導部へのダメージになることを懸念していたとみられる一方で、本人には劉暁波さんの一周忌の今月13日が過ぎれば出国できると示唆していたという。
劉霞さんは北京在住の弟とともに出国するのを望んでいたとされるが、産経新聞は弟が出国できず中国に残されており、劉霞さんに今後の活動を自制させる「事実上の人質」にさせられた、との支援者の言葉を伝えている。(了)
出典元:REUTERS:故劉暁波氏の妻、ドイツ到着(7/10)
出典元:AFP:故劉暁波の妻劉霞氏、飛行機で中国を出国(7/10)
出典元:NHK:中国民主化運動の象徴 劉暁波氏妻の劉霞さん ドイツへ出国(7/10)
出典元:朝日新聞:劉暁波氏の妻、中国出てドイツへ 夫死去後、当局が軟禁(7/10)
出典元:産経新聞:ノーベル平和賞・故劉暁波氏の妻、ドイツへ出国 2010年から軟禁状態(7/10)
出典元:産経新聞:劉暁波氏の妻のドイツ渡航容認 中国に対米「中独共闘」の思惑(7/10)