ホロコーストを生き延びた97歳の女性、ヘヴィメタ・バンドのボーカルになり話題に
ホロコーストを生き延び、数奇な人生を送ってきた96歳の女性が、ヘヴィメタルバンドのボーカルとなり、話題を呼んでいる。
文筆家からヘヴィメタルバンドのボーカルに
話題となっている97歳のホロコースト生還者は、Inge Ginsbergさん。
リードボーカルとしてGinsbergさんが活躍するのは、ヘヴィメタルバンドInge & the TritoneKingsだ。
Ginsbergさんが同バンドでボーカルを務めるようになったのは、3年ほど前のこと。
しかし彼女はリードボーカルでありながら“歌が歌えない”という。それではなぜヘヴィメタルバンドでボーカルを務めるようになったのか。
「私は歌が歌えません。音程を合わせることが出来ません。ヘヴィメタルはただ言葉を言えばいいだけなのでできるんです」というGinsbergさん。
それまで文筆家として働いてきたGinsbergさんは、ある時世間が彼女の発信することに対して関心を持っていないのではないか、という思いに囚われるようになったという。
そこで彼女の若い友人らが思い付いたのが、ヘヴィメタルの音楽に乗せて思いを伝えるということだった。
かくしてリードボーカルとなったGinsbergさんは、英語とドイツ語による詩をヘヴィメタルの音楽に乗せて歌い続けている。
裕福な生活から一転、難民収容所からスパイ活動まで
彼女の人生は数奇なものだ。
Ginsbergさんは、1922年オーストリア・ウィーンの裕福なユダヤ人家庭に生まれる。
都市に住み別荘まで所有した両親の下での生活は豊かなもので、高校までは普通の学校に通っていたという。
しかしそんな生活に暗雲が立ち込める。オーストリアがナチスの統治下に置かれたのだ。
それによりGinsbergさんの父親は英国へと逃亡。その後第二次大戦が開始され、Ginsbergさんら残された家族は7年にもわたり、父が英国にいることを知らなかったという。
一方、Ginsbergさんの母親とGinsbergさん自身は1942年、宝石と引き換えに友人の手を借り、スイスへと逃亡することに成功。
難民収容所での生活を余儀なくされたが、その後Ginsbergさん自身はナチスのスパイ活動やドイツ軍との戦闘指揮を行っていた米国の諜報機関、「戦略諜報局(OSS)」に協力するようになる。
大戦終結後はハリウッドへ
その後も彼女の人生は数奇な道を辿ってゆく。
第二次大戦終結後、Ginsbergさんとその夫Otto Kollmanさんは渡米。
作曲家であるKollmanさんと、ピアノを学んだ経験のあるGinsbergさんはハリウッドで働き始める。
しかし1950年代後半に差し掛かり、ハリウッドでの生活に疲れを感じ始めたGinsbergさんは、生活拠点であったロサンゼルス、そして夫のもとから去ることを決意する。
その後、時を経てイスラエルへと移り住んだGinsbergさんは、そこで3度目の結婚を経験。
今も年に4カ月ほどはイスラエルで過ごすという。
97歳にして見据えるのは未来
そんなGinsbergさんがヘヴィメタルバンドで歌うのは愛や憎悪、人間性に環境、そして自分自身に素直であることだ。
「ヘヴィメタルは詩ではなくてメッセージです」と彼女は言う。
しかしGinsbergさん自身にとって最も価値ある事とは、自由であること。
自由であるためには自らが下した決断について誰かを責めることはできない、というのが彼女の考えだが、97歳のGinsbergさん自身は自らの人生について何も後悔することはないという。
また過去に対する思い入れよりも、「私が信じるのは今日この時と明日です」と未来への思いを伝えている。
ホロコースト下を生き延びハリウッドへと渡り、そして現在はヘヴィメタルバンドでリードボーカルを務めるというGinsbergさんの数奇な人生。彼女の人生における冒険はまだまだ終わることがなさそうだ。(了)
出典:The Times of Israel:97-year-old Holocaust survivor, spy, and heavy metal singer is ready to rock you(1/1)
出典:Boredpanda:This Badass 96 Y.O. Holocaust Survivor Is Now The Lead Singer For A Death Metal Band