【新型コロナウイルス】変異しても感染力が強まっていない可能性:UCL
世界75カ国に及ぶ新型コロナウイルスの患者、1万5000人以上から採取した、ウイルス・ゲノムの分析結果が5月22日に発表された。
もっともこれらの研究結果の査読は終わっておらず、プレ・プリント(未定稿版)として掲載されたという。
査読済みの研究論文を基に分析
今回、発見された内容は、先月初めに科学誌「Infection, Genetics and Evolution」において発表された査読済みの研究論文に基づいたものとされている。
その基となった研究は、「SARS-CoV-2」のゲノムの中に現れた多様性のパターンを特徴づけたものになるという。
今回の研究論文の主筆である、University College London遺伝学研究所のFrancois Balloux教授は次のように述べている。
「多くの増え続けている変異が記録されるにつれ、研究者はそれらの変異したウイルスがより感染性を強めているのか、または致死性(強毒性)を高めているのかを見極めようとしています。できるだけ早く、そのような変化を理解することが重要なのです」
どの変異もウイルスにメリットを与えていない
Balloux教授によれば、今回のゲノムの分析を行うにあたり、新しく変異したウイルスが実際に高い割合で感染していくのかを見極めるために、新しいテクニックを使ったという。
そしてどの候補となる変異も、ウイルスに対してメリットをもたらしている可能性がないことを発見したそうだ。
そもそも他のRNA型ウイルスのように、コロナウイルスは3つの異なった方法で変異を遂げることができる。
1つは、増殖して自らの複製を作る時にコピーエラーを起こすことによって。2つ目は同じ細胞に感染している他のウイルスとの相互干渉(再結合や再集合)を通して。3つ目は、宿主(感染者)の免疫の一部であるRNAの変換システムにウイルスが誘発されることによって、変異を行うという。
多くの変異は中立だが、他の場合はウイルスにとって有利に働き、または逆に有害になるそうだ。
そしてこれら両方、中立または有利に働く変異は、ウイルスが子孫に引き継がれていく中において、よりあたり前の出来事になっていく。
変異のモデルを作り比較
その上で今回、University College Londonとフランスの国際開発農業研究センター(Cirad)、レユニオン大学、オックスフォード大学の研究者らは、世界中のSARS-CoV-2のデータにおいて6822の変異を特定。
そのうちの273個の変異体では、変異が独自に繰り返し起きていることを示す、強力な証拠が得られたという。
また研究者が6822の変異のうち31の変異体に狙いを定めて調べた結果、パンデミックの間に少なくとも10回変異が起きていたことを突き止めたそうだ。
そして変異したウイルスの感染性が強まっているかを調べるために、研究者らはウイルスの進化を示す系統樹のモデルを作成。最初にウイルスに変異が起きた後、そのウイルスの子孫(枝の部分)が、非常に近い変異してないウイルスの能力を超えているかどうかを分析した。
またその分析では、D614Gと呼ばれるウイルスのスパイクに含まれるタンパク質、ウイルスをより感染させるよう変異していると報告されているタンパク質の1つを含めたという。
その結果、変異は実際には、感染力を活発に強めることと結びついていないことが明らかとなった。
また研究者らは、最もよく起きる変異が、新しい人間の宿主にウイルスが適応したことにより起きたというより、むしろ人間の免疫システムによって誘発させられた可能性があることも発見したという。
主筆のLucy van Dorp博士は次のように語っている。
「ウイルスが変異すること、そして最終的に異なった系統に分岐していくことは、多くの人間の中で普通になっていくに従い、単に予測されていました。しかしこれはどんな系統も、より感染性が強くなり、有害となって発現するということを、必ずしも表しているわけではないのです」(了)
出典元:University College London:SARS-CoV-2 mutations do not appear to increase transmissibility(5/22)