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認知症700万人時代を救えるか。神戸市が打ち出す認知症「神戸モデル」とは

認知症700万人時代を救えるか。神戸市が打ち出す認知症「神戸モデル」とは
Flickr/xanday

少子高齢化が進む日本だけではなく、世界的にも大きな問題となっているのが認知症だ。団塊の世代が後期高齢者(75歳)に達する2025年には、日本国内の認知症患者の数は700万人になるともいわれている。また、認知症の高齢者が起こす事故をどう防ぐか、どう補償するかも大きな問題だ。

 

そんな認知症への対策に乗り出した町がある。その町とは、兵庫県神戸市だ。

 

1年が経過した認知症「神戸モデル」とは

 

2016年にWHO神戸センターと神戸大学による共同研究チームが、実現に向けて大規模調査を開始した「神戸モデル」をご存じだろうか。これは認知症の早期発見と早期治療の実現、そして患者本人や家族の負担の軽減を目指したプログラムだ。

 

それから3年が経ち、2019年1月28日から以下の内容で認知症「神戸モデル」事業がスタートした。

 

・65歳以上を対象に、自己負担ゼロで医療機関での認知症診断の受診が可能
・認知症と診断された人を対象に、市が賠償責任保険(最高2億円)の保険料を負担
・事故の相談を24時間365日受け付け
・GPSによる見守りとかけつけサービス(一部有料)
・認知症の方が起こした事故により被害を受けた神戸市民に対し、見舞金(最高3千万円)を、賠償責任の有無にかかわらず支給

 

認知症の早期発見の実現と認知症患者による事故の救済制度を中心とした事業だ。少ない市民負担で行うことを目指しており、事業にかかる費用の個人市民税均等割は、1人あたり年間400円となっている。

 

診断助成利用者の13%が認知症と判明

 

認知症「神戸モデル」では、65歳以上の市民なら自己負担ゼロで認知症の検診を受けることができる。神戸市は75歳以上の約23万人に受診券を順次送付。2019年10月末までの申込み数は11,156人となった。

 

同年9月末までに地域の医療機関で認知機能検診を受けた人は8,718人。「疑いあり」と判断されたのは、そのうちの3割に当たる2,776人だった。

 

認知症の疑いがある人は、専門の医療機関での認知機能精密検査の受診が可能となる。受診した1,872人のうち、1,137人(60.7%)が認知症と診断され、483人(25.8%)が認知症の前段階とされる軽度認知障害(MCI)だと診断された。

 

診断助成をきっかけに受診した人の13.0%が認知症、5.5%が軽度認知障害(MCI)だったという。

 

市民からも「制度が受診のきっかけとなった」「受診の敷居が下がった」という声が上がっており、早期発見の一助となったようだ。また、検診時に啓発リーフレットを配布したことが、運転免許証の自主返納につながったとの声もあった。

 

認知症の早期発見は早期治療につながり、症状の改善や進行の予防を目指すことができる。また、まだ症状が軽いうちから認知症であることが分かれば、今後について本人が考えたり、家族と話し合ったりする時間を作ることが可能だ。

 

事故の救済制度の実施は3件

 

事故の救済制度は2019年4月1日にスタート。下記の3つの事案に対して見舞金または賠償保険の給付があった。支給対象者が法人の場合には、見舞金の対象外となるため、賠償責任保険からの給付となる。

 

《事案1》
他人の自転車を自宅に持ち帰り、自転車を損傷させたケース
→15,932円の見舞金を支給

《事案2》
飲食店で食事中に座席を汚損させたケース
→138,632円の損害賠償責任

《事案3》
自宅で着替え中に転倒し、ガラス扉を割ったケース
→9,720円の見舞金

 

市民からは「安心して外出できる」「家族に安心してもらえる」との声が上がっている。

 

認知症患者が起こした事故が賠償請求を求められたケースとしては、2007年に起こった死亡事故が有名だ。徘徊をしていた認知症の91歳の男性が列車にはねられて死亡した事故をめぐり、家族がJR東海から損害賠償を求められた。2016年3月には、最高裁は賠償責任なしと結論づけているが、多くの認知症患者とその家族が他人事ではないと感じたことだろう。

 

賠償責任の有無にかかわらず見舞金が支給される認知症「神戸モデル」は、認知症当事者や家族だけではなく、被害を受けるかもしれない市民にとっても大きな安心を生みそうだ。

 

これらの結果を受け、神戸モデルの取り組みを全国で制度化するように神戸市は国に要望する考えだ。

 

認知症対策は神戸市から世界へ

 

神戸市では「認知症にやさしいまちづくり」の実現に向けて、2016年3月には大手製薬会社の日本イーライリリー、そして神戸医療産業都市推進機構(当時の先端医療振興財団)と三者協定を結んでいる。

 

神戸市に本社がある日本イーライリリーは、「2025年までに認知症を予防可能な疾患にしていきたい」とし、アルツハイマー型認知症の治療薬の開発を進めている。2019年9月末時点では2種類の新薬が開発中だ。日本最大のバイオメディカルクラスターである神戸医療産業都市推進機構と新薬の開発研究、そして認知症にやさしいまちづくりの実現に向けて協働し、神戸市は医療産業都市として、新薬や治療法の開発促進の仲立ちを担う。

 

2016年9月に神戸市で開かれた先進7ヵ国(G7)保険大臣会合では、認知症の早期診断と早期治療のアプローチ改善や、認知症患者のケアに必要な政策と資源を導入することへのコミットメントを盛り込んだ神戸コミュニケが採択されている。

 

認知症の治療や対策が、神戸市から世界に発信される日もそう遠くはなさそうだ。(了)

 

出典元一覧
・PRTIMES「全国初!認知症「神戸モデル」~事業開始から1年~」(1/29)
・神戸大学「WHO 神戸センターと神戸大学、認知症の早期発見・早期介入をめざす『神戸モデル』構築に向けた共同研究を開始」(2016/9/7)
・厚生労働省「神戸コミュニケ
・神戸市「臨時会見」(2016/3/15)
・日本イーライリリー「開発中の新薬リスト」(2019/9/30)
アイキャッチ画像出典元:Flickr/xanday

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