従来の常識を覆す!酸素を必要としない動物を発見:テルアビブ大学
イスラエルの科学者が予期せず、呼吸時に酸素を使わない動物を発見し、これまでの科学的仮説を変える可能性があるとして注目を集めている。
サーモンの筋肉で暮らす寄生虫
その生物を発見したのは、テルアビブ大学などの研究チームだ。その論文は2月25日に学術誌「 PNAS」において発表された。
研究者が分析したのは「ヘネガヤ・サルミニコラ(Henneguya salminicola)」と呼ばれる寄生虫。これはサーモンなどの筋肉の中で暮らす、10セルにも満たない小さな刺胞動物(サンゴやクラゲの親戚である粘液胞子虫:多細胞生物)とされている。
そして研究者らは、この「ヘネガヤ・サルミニコラ」が進化するに従い、エネルギーを生み出すのに酸素を消費するような呼吸をしなくなったことを突き止めたという。この研究を率いたテルアビブ大学動物学部のDorothee Huchon教授は、次のように述べている。
「酸素(好気的)呼吸は、動物の中ではいたるところで見られるものです。しかし私たちは、この生物がこれに当てはまらないことを確認しました。私たちの発見は、進化が奇妙な方向へ進むことができることを示しています。酸素呼吸は主要なエネルギー源です。しかし私たちはこの重要な流れ(方法)を諦めた動物を発見したのです」
※好気性(酸素に基づく代謝機能を持つ)、嫌気性(酸素を必要としない)
ミトコンドリアのゲノムがなかった
もっとも嫌気性の環境にいる、ある種の真菌類やアメーバ、繊毛虫類(単細胞)のような有機体は、時間の経過とともに呼吸する能力を失っているという。
そして今回の新しい研究では、同じことが動物の世界でも起きることを証明した。その理由として、その寄生虫が恐らく偶然、嫌気性の環境の中で生活することになったからと見られている。
また「ヘネガヤ・サルミニコラ」のゲノム配列も、魚に寄生している他の粘液胞子虫のゲノムと比較され、組み立てる際に偶然、研究者が嫌気的な性質を発見したそうだ。
そもそもミトコンドリアはエネルギーを生むために酸素をとらえる細胞の原動力になるものだが、「ヘネガヤ・サルミニコラ」のゲノム配列を観察している時に、それがミトコンドリアのゲノムを含まないのを発見することになった。
つまりミトコンドリアがないということは、この動物が酸素を吸収していないことを示している。
これまでの仮説を覆す
これまでは、嫌気的環境の中で動物に属する有機体が生き残ることはできるのか?といった議論があったが、それは全ての動物が酸素を吸って生きているという仮説があったからだと言われている。
というのも動物が多細胞で、地球上の酸素濃度が増した時に最初に現れ、その後組織を高度に発達させてきたという事実があるからだ。そのため今回の発見は、従来の科学的な常識を覆すものとなった。
もっともその寄生虫がどのようにエネルギーを生み出しているのかは明らかになっていない。魚の細胞の周りからエネルギーを引き出しているのか、または酸素を必要としない別の呼吸法を身につけているのか、などが考えられているようだ。(了)
出典元:Tel Aviv University:TAU Researchers Discover Unique Non-Oxygen Breathing Animal(2/25)