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新型コロナの感染メカニズムには民族的・地域的な差はない:北海道大学

新型コロナの感染メカニズムには民族的・地域的な差はない:北海道大学
NIAID

新型コロナウイルスの感染には民族的な違いや地域的な差があると考えられてきたが、感染初期のメカニズムには、そのような差がないとする研究結果が発表された。

 

7つのタンパク質の遺伝子を調査

 

この研究を行ったのは、北海道大学大学院歯学研究院薬理学教室の李智媛助教と、ボストン小児病院のInHee Lee先生、ハーバード大学医学大学院のSek Won Kong教授との共同研究グループだ。

 

そもそも新型コロナでは、疾病率や死亡率には地域差があり、アメリカにおいてはアフリカ系やラテン系の感染者の死亡率が、他の種族・民族系と比べて有意に高いことが示されていたという。これらの要因として、遺伝的な背景の違いがあることが考えられてきた。

 

そこで研究者は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染に関わる7つのタンパク質(ACE2、TMPRSS2、カテプシンB/L、TLR3/7/8)をコードする遺伝子に、地域・民族間による差があるかどうかを調査。ウイルス感染の初期メカニズムに差異が生じているかどうかを比較・検討した。

 

その結果、ACE2遺伝子に、特に日本人に圧倒的に多く見られる遺伝子バリアント(頻度0.23%)などがあったが、いずれもタンパク質の機能に変化を与えるものでは無く頻度も極めて少ないことから、関連分子の機能に地域・民族間での差は無いとの結論に至る。

 

ウイルスが感染する仕組み

 

そもそもSARS-CoV-2は、とげ状の突起(スパイクタンパク質:Sタンパク質)を持った殻が、ウイルス遺伝子であるゲノムRNAを包むような構造をしている。ヒトの細胞に感染する際には、まずこのSタンパク質がヒトの細胞表面のACE2というタンパク質に結合すると言われている。

 

次にウイルスが細胞に侵入するためには、TMPRSS2やカテプシンB/カテプシンLというタンパク質(酵素)によって、Sタンパク質が2つに切断されることが必要となるという。

 

さらにウイルスが細胞内に侵入すると、ウイルスのゲノムRNAが細胞内に取り込まれる。その後、ウイルスRNAは、TLR3/TLR7/TLR8といったタンパク質(受容体)に結合。これらの受容体への結合は、自然免疫反応を引き越す。

 

そこで研究者らは、これらSARS-CoV-2の感染に関わる7つのタンパク質をコードする遺伝子配列に関する大量のデータを、地域・民族間で比較・検討した。

 

北海道大学

さまざまなデータベースを分析

 

分析において研究チームは、3つの大規模ヒト遺伝子多様性データベース(gnomAD、KoreanReferenceGenomeDatabase:韓国人遺伝子多様性データベース、TogoVar:日本人遺伝子多様性データベース)及び、3つの全ゲノム配列データベース(1000GenomesProjects、Gene-TissueExpression、SimonsGenomeDiversityProject)を使用。

 

これらを総合的に探索し、SARS-CoV-2の感染に関わる7つのタンパク質をコードする遺伝子に、地域・民族による差があるかどうかを調べた。さらに、遺伝子配列及びタンパク質の構造・機能情報から、これら7つのタンパク質に機能的な差異があるかどうかを検討したという。

 

差はあるものの、タンパク質の機能に影響を与えない

 

そもそもACE2タンパク質の全アミノ酸配列のうち、SARS-CoV-2との結合に直接関与するのは33個のアミノ酸となる。この33個のアミノ酸をコードする遺伝子配列には19種類の遺伝子バリアント(多様性配列)が発見され、その平均の発生率は0.03%だったという。そのうち、K26Rというバリアント配列は最も多く(0.39%)、しかも地域・民族間で差異があったそうだ。

 

この配列の最も少ないのが東アジア系(0.007%)で、最も多いのが非フィンランド欧州系(0.59%)だった。しかしながら、このアミノ酸置換変異は分子構造から見て、ACE2タンパク質の機能に影響を与えるものでは無いと予想された。

 

一方、K31Kというバリアント配列は東アジア系に多く(0.022%)、韓国人(0.029%・解析ゲノム数=1722)と比較しても特に日本人(0.23%・解析ゲノム数=3552)に圧倒的に多く見られたという。ただしこのバリアントは、アミノ酸配列に変化をもたらすものでは無いので、ACE2タンパク質の機能に変化はなかったそうだ。

 

他の遺伝子バリアントは、いずれも頻度が少ない(0.1%以下)ものであり、アミノ酸置換を伴わないものや、アミノ酸置換を伴うものでもやはり分子構造からみてACE2の機能に変化をもたらすものではなかったという。

 

同様にTMPRSS2、カテプシンBやカテプシンLの酵素活性や、TLR3、TLR7、TLR8のウイルスゲノムRNAとの結合能力でも、それぞれのタンパク質に機能異常を生じるような遺伝子変異が見つかるものの、いずれも0.01%の頻度であり、地域的・民族的な差は見られなかった。

 

以上から,SARS-CoV-2とヒトの細胞の最初の結合や、初期自然免疫応答に関わる分子群の遺伝子配列に、地域・民族間で差はないと結論付けられた。

 

また、このことから遺伝子の差異が重要な危険因子では無く、むしろ各個人の病歴、年齢、環境要因(大気汚染、湿度、喫煙)やヘルスケア格差などが、より重要な危険因子であると考えられるという。

 

さらなる解析も必要

 

しかし、重症例における遺伝的背景の関与は排除できないので、さらなる解析が必要だとしている。

 

また、より多くのヒト・ゲノムデータベースを解析する事で、地域的・民族的な差が見つかる可能性もあるという。

 

さらに、非常に稀な機能欠失変異と若年性の重傷例との関連も見つかる可能性もあるとか。

 

その上で、遺伝子変異を導入した細胞を使った生物医学的な実験による解析結果も、同時に蓄積していくことが重要だと述べている。(了)

 

 

出典元:北海道大学:新型コロナウイルスの感染に関わる7つの遺伝子に地域・民族間による差が無いことを解明(9/18)

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