宇宙では1秒間に300万個の赤血球が破壊されていた!長期ミッションに暗雲か?
地球に戻った宇宙飛行士に起きる「貧血」について研究が進められ、新たな事実が明らかになった。
宇宙飛行士が経験する「貧血」
そもそも宇宙における最初のミッション以来、地球に帰還した宇宙飛行士に「貧血」が起きることは、科学者の間で知られてきたという。
しかしその理由については、長い間謎とされてきた。
そこで今回、カナダ・オタワ大学の研究者が行った小規模な研究において、宇宙では地球より50%以上も多く、赤血球が破壊されていることが明らかになった。
宇宙では300万個の赤血球が破壊される
研究者たちは、国際宇宙ステーションに6ヶ月間滞在したイギリス人のティム・ピーク氏を含む14人の宇宙飛行士の血液と呼気のサンプルを使って、赤血球の減少を測定することができたという。
赤血球は、肺から体のあらゆる場所に酸素を運ぶ、生命維持のための重要な細胞のこと。しかし宇宙に到着すると多くの赤血球が破壊され、ミッションの全期間を通じて、破壊が続くことが明らかとなった。
実際、地球では1秒間に200万個の赤血球が破壊されるのに対し、宇宙では1秒間に300万個の赤血球が破壊されるそうだ。
地球に戻っても減少率が高いまま
もっとも宇宙にいる間は無重力のために、赤血球が減少しても問題は起きず、また人間の体は失われた赤血球を食事などによって補うことができるという。
ただし研究者は、特に長期間のミッションのために宇宙に滞在する場合、どれだけの間、身体が常に自己修復していく状態を保てるのかは分からないそうだ。
実際に、研究対象となった宇宙飛行士が重力のある生活に戻っても、すぐに回復することはなく、1年後にも赤血球の減少率が高いことも判明したという。この影響は、男性や女性の宇宙飛行士、両方が受けていたそうだ。
今回の研究結果はNature Medicine誌に掲載されており、これがもし事実だとすれば、遠く離れた惑星へのミッションに参加する人々が、より多くの鉄分を摂取するために、またはエネルギーとしてより多くのカロリーを摂取するために、食生活を適応させる必要があることを意味するのかもしれない。
また研究者は論文において「宇宙飛行士や宇宙旅行者が飛行前に、貧血の影響を受ける血液や健康状態についてスクリーニングを行うことも必要かもしれない」とも述べている。
さらに貧血の原因を探る予定
今回の主任研究員で、医師でもあるGuy Trudel博士によれば、宇宙旅行による「貧血」は、新型コロナなどの病気により、集中治療室で数カ月間活動しなかった患者が経験する貧血と似ているという。その上で、Trudel博士は次のように語っている。
「もし、この貧血の原因を正確に突き止めることができれば、宇宙飛行士にとっても、地球にいる患者にとっても、治療や予防ができる可能性があります」
貧血は、運動や回復を妨げることにもなり、Trudel博士の研究チームは、今後このメカニズムを研究する予定だとしている。(了)
出典元:BBC:Space travel destroys red blood cells faster than on Earth(1/14)