妊娠中の鉄欠乏症により、オスのマウスの胚にメスの特徴が発現

妊娠中の鉄分の不足により、オスの胚にメスの特徴を発現させることが、マウスを使った実験で明らかにされた。
オスの精巣の発達に、鉄が不可欠
実は、以前の研究では、Y染色体上の「SRY遺伝子」が、哺乳類のオスの器官の発達を活性化させる「マスタースイッチ」であることが明らかになっていたという。
そして「JMJD1A」と呼ばれる酵素が、このマスタースイッチの切り替えに重要な役割を果たしており、正常に機能するためには、鉄が必要となる。
ただ鉄分と性別決定の関連性は、完全には解明されていなかったそうだ。
しかし6月4日に「ネイチャー」誌に掲載された研究論文において、研究者らは、オスに最も多く見られるXY染色体のマウスの精巣の発達に、鉄が不可欠であると報告した。
「全く新しい、予想外の発見」
研究論文によれば、鉄分不足は、オスの生殖器の発達を促す重要な遺伝子の活性化を阻害するという。
その結果、オスに最も多く見られるXY染色体の組み合わせを持つ胚は、メスの生殖器を発達させてしまうそうだ。
本研究論文の共著者で、オーストラリアのクイーンズランド大学発生生物学の名誉教授で、あるピーター・クープマン氏は、次のように述べている。
「これは全く新しい、全く予想外の発見です。鉄がこれほど重要な発達のスイッチを切り替えられることは、これまで示されていませんでした」
鉄分不足で精巣の代わりに、卵巣が発達
この研究において研究者らは、薬物療法と鉄分の量を低く抑えた食事療法を用いて、妊娠したマウスの鉄分のレベルを操作したという。
そして妊娠したマウスが鉄欠乏状態になると、オスのXY胚39個のうち6個が精巣の代わりに、卵巣を発達させたそうだ。
また研究者は、胎児の生殖腺(子宮内で精巣または卵巣へと発達する構造)を実験室のシャーレで培養し、鉄欠乏の影響を直接観察。
これらの分析では、細胞内の鉄を正常レベルの40%にまで減少させると、SRY遺伝子上のヒストンと呼ばれるタンパク質が大幅に増加することが示されたという。
ヒストンはDNAに結合し、どの遺伝子が活性化するかを制御するタンパク質であり、ヒストンの増加により、オスの器官を発達させるSRY遺伝子の発現が、ほぼ完全に阻害されたそうだ。
通常、JMJD1A酵素はSRY遺伝子からヒストンを除去し、遺伝子の活性化を可能にする。
そのため研究者たちは、鉄レベルが低下するとJMJD1A酵素の働きが低下し、SRY遺伝子上にヒストンが蓄積するのではないかと仮説を立てているという。(了)
出典元:Livescience:‘Completely new and totally unexpected finding’: Iron deficiency in pregnancy can cause ‘male’ mice to develop female organs(6/13)