運動が癌患者の死亡リスクを3分の1に低減、腫瘍の再発も防ぐ

運動が、癌患者の死亡リスクを約3分の1に低減し、腫瘍の再発を防ぎ、薬よりも効果的であるとする、画期的な研究結果が明らかにされた。
米・英・豪・仏などの患者を対象に調査
そもそも何十年もの間、医師は癌発症リスクを低減するために、健康的なライフスタイルを推奨してきた。
しかし、これまで癌の診断後に運動が及ぼす影響に関する証拠はほとんどなく、患者の日常生活に運動を取り入れることを支持する意見も、ほとんどなかったという。
今回、アメリカやイギリス、オーストラリア、フランス、カナダ、イスラエルの癌患者を対象とした世界初の研究で、治療後の計画的な運動プログラムが、死亡や再発、または新たな癌の発症リスクを劇的に低減できることが明らかになった。
この研究結果は、世界最大の癌学会であるアメリカ臨床腫瘍学会(ASCO)の年次総会(シカゴ)で発表され、「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」誌に掲載された。
発症のリスクが28%低下、死亡リスクも37%低下
この研究は10年以上にわたって行われ、研究者らは2009年から2023年の間に889人の大腸癌の患者を追跡したという。
参加した患者の90%は「ステージ3」で、体系的な運動プログラムに参加する集団(445人)と、健康的なライフスタイルの冊子を受け取る集団(444人)に、無作為に分けられたそうだ。
運動グループの患者は、パーソナルトレーナーと月に2回、コーチングセッションと監督付き運動セッションを受け、その後は月に1回、合計3年間トレーニングを受けたという。
また運動グループの患者は、設定された運動目標を達成できるよう、指導とサポートも受けたそうだ。
1週間の目標は45分から60分のウォーキングを3~4回行うことだったが、より活発に活動する方法を選ぶ患者は、カヤックやスキーに行くこともできたという。
そして5年後、運動グループの患者は、他のグループの患者と比較して、癌の再発または新規発症のリスクが28%低下。8年後には、運動グループの患者は、健康的なライフスタイルの冊子を渡された患者と比較して、死亡リスクが37%低下した。
「薬よりも良い」
今回の研究論文の筆頭筆者で、カナダ・クイーンズ大学のクリストファー・ブース博士によれば、手術と化学療法を完了した後、高リスクの「ステージ2」及び「ステージ3」の大腸癌患者の約30%は、最終的に病気の再発を経験するという。
その上でブース博士は「今回の研究結果は、明確な答えを与えてくれました。パーソナルトレーナー付きの運動プログラムは、癌の再発や新規発症のリスクを低減し、気分を良くし、寿命を延ばすのに役立つのです」と述べている。
また今回の研究には参加していない、アメリカ臨床腫瘍学会の最高医療責任者であるジュリー・グラロウ博士は、この研究結果の質が「最高レベルのエビデンス」であり、「治療中および治療後に身体活動を奨励することの重要性に対する、理解を大きく変えるものになるだろう」とし、次のように述べている。
「この程度の効果(発症リスクが28%、死亡リスクは37%減少)なら、承認されている多くの薬と比べ、運動には同等の効果があります。承認されている薬剤はそれよりも効果が低く、しかも高価で毒性があります。(この研究が発表されたセッションのタイトルは)『薬と同じくらい良い』でした。私なら『薬よりも良い』と言いたかったでしょう。なぜなら、副作用がないからです」
無論、運動がすべての癌患者にとって、最善の選択肢ではなく、新しい運動を始める前には、医師に相談することが必要だという。
また今回の研究は、大腸癌の患者のみを対象としたものだが、グラロウ博士は「この研究結果が他のがんにも、適用できないと考える理由はない」と述べている。(了)
出典元:The Guardian:Exercise ‘better than drugs’ to stop cancer returning after treatment, trial finds(6/1)