内戦の最中にあるシリアで危機に瀕していた影絵芝居、危機遺産に登録
2011年から7年にもわたり続くシリア内戦。その混乱の中、失われようとしているシリアの伝統“影絵芝居”が、国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)の緊急保護リストに登録されることとなった。
影絵芝居は無形遺産に
シリアの伝統である影絵芝居が、ユネスコのリストに登録されたのは先週のこと。
影絵芝居はユネスコの世界遺産の中でも、無形文化財を保護対象とする「緊急に保護する必要がある無形文化遺産の一覧表(危機一覧表)」に登録されている。
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— Asharq Al-Awsat English (@aawsat_eng) December 5, 2018
シリアの影絵芝居とは?
影絵芝居はオスマン帝国時代の中東地域において人気となった伝統芸能で、トルコやエジプト、そしてシリアにおいて特に人気を博したものだ。同様の伝統は東南アジアや中国、インドの一部においてもみられるという。
影絵芝居において伝統的な影絵芝居師が用いるのは、動物の皮をなめして作られた人形だ。
それらを半透明のスクリーンの後ろから光を当てつつ、スクリーンへと押し付けるようにしながら操ることで、影絵による芝居を行う。
演目の内容は、主として二人の主要登場人物が繰り広げる風刺を通したユーモア溢れる社会批評で、女性のキャラクターや喋る動物が登場することもあるという。
また伝統的な影絵芝居は主として喫茶店で行われるとのことだ。
演者減少の危機に瀕する影絵芝居
しかし影絵芝居は、シリア内戦の以前から演者減少の危機に瀕している。
この理由としてユネスコは、電子機器を用いたエンターテイメントの出現と紛争による人の移動を挙げている。
その結果、シリアの国全体でも影絵芝居を演じる者の数は数えるほどと言われ、首都ダマスカスにおいて影絵芝居を演じるのはわずか一人。
その最後の一人であるShadi al-Hallaqさん(43)は、ユネスコのリストに登録されることによって国際的な認知が高まり、影絵芝居が復興することを期待しているという。
「お祝いのための電話がかかってきた時には、夢を見ているかのように感じました」と語るShadiさん。
Shadiさんは「シリアで影絵芝居を極めている者は私以外にはいない」として演者の少なさに対する危機感を示しているが、近いうちにも影絵芝居師を目指す複数のシリア人に約半年間かけて伝統を教えていく予定だという。
内戦の影響はShadiさん自身にも
一方、シリア内戦以前から危機に瀕していた影絵芝居が、内戦によりさらなる打撃を被ったことは言うまでもない。
シリア内戦以前よりシリア国内に数えるほどしかいなかったという影絵芝居師は、内戦が開始されて以来姿を消しているという。
Shadiさん自身も内戦から逃れるため一時はレバノンに渡り、建設作業員として働いたこともある。
さらに内戦開始からほどなくして、その最中にあった東グータでShadiさんは移動式劇場のセットと23ものお手製の人形を失ってしまう。
現在Shadiさんが上演の際に用いる人形はKarakozとAywazという名の2つの人形だが、人形の中で残されたのはこの2つだけだという。
Shadiさんは「人形を埋めなければならないと思ったことがある」と語る。
しかし今は「シリアにおいて輝ける未来が彼らを待っている。彼らと共に世界中をツアーして回る」として今後の目標を語っており、ユネスコのリストへの登録がShadiさんに希望をもたらしたようだ。
長引く内戦により今も混乱が続くシリア。そんな中で消え入りそうになっていた伝統に再び光が当てられたというのは喜ばしいことだ。(了)
出典:BBC News:Syria war: Last puppeteer of Damascus is given lifeline(12/5)
出典:Saudi Gazette:UN lifeline for Syria’s last shadow puppeteer(12/5)
出典:Egypttoday:Syria’s last shadow puppeteer hopes to save his art (12/5)