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英国で唯一のナチスによる強制収容所、その秘密が考古学者により明らかに

英国で唯一のナチスによる強制収容所、その秘密が考古学者により明らかに
Wikipedia Common

第二次大戦終結から75年を経た現在においても、ナチス・ドイツが残虐の限りを尽くしたアウシュビッツ強制収容所の存在は歴史の教科書にも載り、人々の記憶から消えることはない。

 

しかし強制収容所の中には、戦後忘れ去られてしまったものも存在する。

 

その中の一つ、英国にある唯一の強制収容所の謎が考古学者らによって明らかになった。

 

忘れ去られていた強制収容所

 

英国領、イギリス海峡に位置するチャンネル諸島の中で3番目の大きさを誇るオルダニー島は、緑のパノラマ広がる美しい風景からは想像もできない暗い過去を持つ。

 

第二次大戦の最中、島には“シルト収容所”と呼ばれるナチス・ドイツによる強制収容所が存在したのだ。

 

ここでは数百人もの収容者が殺害されたり残虐な仕打ちを受けていたにもかかわらず、今日その存在はほとんど忘れ去られてしまっていた。

 

そんなシルト収容所の暗い過去に再び光を当てることとなったのが、英国の考古学者らによる研究チームだ。

 

今回の研究の主筆であり、英国の強制収容所の跡地の専門家で考古学者のCaroline Sturdy Colls氏は、これについて「英国市民であり研究者として、第二次大戦の際にオルダニー島で行われた残虐行為について、私は自分の博士課程の研究を行うまで聞いたこともなかった」と告白する。

 

「私はドイツ人がチャンネル諸島を占領したという事実に関する広範な認識はあったが、彼らがこれらの収容所を建設したということについては全く理解していなかった」

 

シルト収容所に関する体系的な研究が行われるのは、戦後70年以上を経た中で初の試みであるという。

 

2008年、元収容者の要望によって建てられたという記念碑。シルト収容所の門付近に位置する(Flickr / James Vizard)

オルダニー島の暗い過去とは

 

オルダニー島の暗い歴史の始まりは、1940年に遡る。

 

この年の6月、フランスはドイツに降伏。フランス本土近くに位置するチャンネル諸島の島々も、これに続いてドイツ軍の支配下に置かれることとなった。

 

そして1942年、ドイツ軍はノルダニー収容所、ボルクム収容所、ヘルゴラント収容所、そしてシルト収容所という4つの労働収容所の建設を始める。

 

これらの労働収容所に収容された人の多くはウクライナ人、ポーランド人、ロシア人やその他ソビエト連邦からの人々であった一方、かなりの人数のフランス系ユダヤ人もいたという。

 

さらに1943年3月には、これらの労働収容所の中でも最も過酷であることで知られていたシルト収容所は強制収容所へと形を変え、その運営は親衛隊に任されることとなる。

 

シルト収容所においてそれ以前に収容されていたのは数百人であった一方、強制収容所へと変貌を遂げて以来、同収容所には1000人以上もの人々が暮らすこととなったという。

 

そして時を経た戦後、市民がオルダニー島へと戻り新たな生活を始める中、放棄され部分的に破壊された収容所は英国軍により調査されることとなる。

 

しかしそれから時が経つにつれ、オルダニー島の収容所の存在は風景の中へと溶け込み、人々の記憶から薄れていってしまうこととなった。

 

オルダニー島のパノラマ(Wikipedia Common)

研究で明らかになったこととは?

 

それではこうして忘れ去られてしまったオルダニー島の収容所の過去について、今回の研究によって一体どのようなことが明らかになったというのだろうか。

 

研究においてはかつての収容者の証言といった歴史上残された情報と、上空からの調査や地中探査レーダー、さらには“LiDAR”と呼ばれる光センサー技術といった現代の技術の双方が用いられた。

 

するとシルト収容所の過酷な状況を伝えた目撃者の証言と一致する物理的な証拠の数々が発見されたという。

 

さらにはバラック内では収容者一人につき最大でもわずか16平方フィート(約1.48平方メートル)しかスペースがなかったことや、収容者用のトイレが残されていることも明らかになっている。

 

また研究においては司令官の家から収容所へと続く地下トンネルなどをヴァーチャル・リアリティによって視覚化させたものも作成されたという。

 

ちなみにこの地下トンネルが設置された目的について、はっきりとしたことはわかっていないものの、これには頻繁に利用された形跡があり、女性が慰安所に連れて行かれる際に使用された可能性が考えられているという。

 

Wikipedia Common

強制収容所研究の意義とは

 

ナチスはシルト収容所で亡くなった人の数について、103人であるとしている。

 

しかし研究者らはオルダニー島に設置された全ての収容所で亡くなった人の数は、少なくとも700人に上るとみている。

 

一方、収容所の歴史の真実はオルダニー島におけるタブーとみなされており、2019年にSturdy Colls氏の研究に焦点を当てたドキュメンタリー『Adolf Island』が公開された際には、研究チームは地元当局からの反発を受けることにもなったという。

 

「我々が行った研究は、苦しんだ人々のストーリーがより広く知られるのを手助けしようとしたものだった」

 

今回の研究の意義について、Sturdy Colls氏はこう語る。

 

またオルダニー島の議員を務めるGraham McKinley氏は、シルト収容所についてどのように保存や研究を行うのか、という点と共に、その記憶を後世に伝えていくか検討するため、委員会を設立することを望んでいるという。

 

McKinley氏は島の負の歴史から目を背けようとする人が未だに存在することを指摘しつつ、こう語る。

 

「実際にここで何が起こったのか世界に向けて見せるため、我々はもっとたくさんのことをすべきであると信じている」

 

Flickr / Matthew Somerville

 

英国唯一の強制収容所を擁したオルダニー島。その負の歴史が世界に知られるようになるのは、まだこれからなのかもしれない。(了)

 

出典:Smithsonian:Archaeologists Reveal the Hidden Horrors of Only Nazi SS Camp on British Soil(4/1)

出典:National Geographic:‘Forgotten’ Nazi camp on British soil revealed by archaeologists(3/31)

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