核兵器廃絶国際キャンペーン「ICAN」がノーベル平和賞を受賞、これまでの取り組みとは?

YouTube/Nobel Prize

※長文になるため、あらかじめご了承いただきたい。

 

12月10日、ノルウェーの首都オスロで行われたノーベル授賞式において、核兵器廃絶国際キャンペーン「ICAN」が2017年のノーベル平和賞を受賞した。

 

「光へ向かって…」ノーベル平和賞受賞演説

 

授賞式には「ICAN」のベアトリス・フィン事務局長(35)、そしてカナダ在住の被爆者サーロー節子さん(85)、10人いる国際運営委員の中で唯一の日本人である、川崎哲さん(49)らも出席した。

ICAN

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授賞式の演説においてベアトリス・フィン事務局長は、すべての核保有国は世界を危険にさらしており、日本など核の傘のもとにある国も破壊行為に加担することになると批判。

 

その上で「核兵器を終わらせるか、私たち人類が終わるかの、選択をしなければならない」と述べ、すべての国が核兵器禁止条約に参加すべきだと訴えた。

 

また「ICAN」と活動を共にしてきたサーロー節子さんも、原爆が投下され、がれきの下敷きとなり暗闇の中から助け出された自らの経験を紹介。「がれきの中で聞いた言葉をいま皆さんに繰り返します。“あきらめるな、押し続けろ、光の方にはっていくんだ”」と語りかけた。

 

さらに「私たち被爆者は72年間、この条約を待っていました。これを核兵器の終わりの始まりにしましょう」と主張し、厳しい状況の中でも核廃絶に向けた取り組みを続けなければいけないと呼びかけた。

 

今回の平和賞の受賞理由として、ノーベル委員会は「核兵器の使用がもたらす破滅的な人道上の結末への注目を集め、核兵器を条約によって禁止するための革新的な努力をしてきたこと」としている。

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「ICAN」とはどういう組織なのか?

 

今回受賞した「ICAN」(核兵器廃絶国際キャンペーン)とは、核兵器を禁止し廃絶するために活動する世界のNGO(非政府組織)の連合体のこと。

 

核戦争防止国際医師会議(IPPNW)を母体に2007年、オーストラリアで発足。2011年にジュネーブに国際事務所を設置して以来、核兵器の非人道性を訴える各国政府と協力して核兵器を国際法で禁止するキャンペーンを世界的に展開してきたという。

 

「ICAN」の執行部は、世界10団体からなる国際運営グループからなる。この国際運営グループが活動方針を決め、国際事務局を監督して世界中の取り組みを牽引してきたそうだ。

 

同グループにはIPPNWのほか、婦人国際平和自由連盟、英アクロニム研究所、オランダのPAX、日本からはピースボートが参加。ピースボートを代表して川崎哲さんが国際運営委員を務めている。

 

2014年7月以降、スウェーデン出身のベアトリス・フィン事務局長が国際事務局を取り仕切り、他にジュネーブに2名、メルボルンに1名の国際スタッフがいるという。

 

メンバーたちの中心は、外交経験もなく、広島や長崎の被爆体験を聞いて育ったわけでもない、20代から30代の世界の若者たちとされている。

 

世界中からの多数の団体がこの運動を支えており、現在101カ国から468団体が参加。日本からはピースボートの他、核戦争に反対する医師の会、創価学会インタナショナル、ヒューマンライツ・ナウなども参加しているそうだ。

 

核兵器禁止条約までの歩み

 

ピースボートによれば、核兵器を条約で禁止するという提案は1990年代からあったという。これまで生物兵器や化学兵器という大量破壊兵器や、地雷やクラスター爆弾といった非人道兵器が国際条約で禁止されてきたように、核兵器も条約で禁止しようというものだったそうだ。

 

この動きに一気に火が付いたのは、2010年に赤十字国際委員会が核兵器は非人道兵器であると断ずる声明を発表したこと。ここから、核兵器の非人道性に関する国際的運動が始まったとされている。

 

2012年以降、スイスなどによって核兵器の非人道性に関する共同声明が発せられ、ノルウェー、メキシコ、オーストリアでは核兵器の非人道性に関する国際会議が計3回開かれることに。

 

さらに核兵器を法的に禁止するための議論が2015年より本格化し、2016年の国連作業部会そして国連決議によって、条約の交渉開始が決定。

 

2017年3~7月にニューヨーク国連本部で条約交渉会議がコスタリカを議長に行われ、7月7日、122カ国の賛成投票により核兵器禁止条約がついに成立した。

 

この過程で「ICAN」に集う世界中のNGOがたえず諸政府に働きかけ、国際的な議論と交渉の前進を促してきたという。

 

その活動の中で「ICAN」は政府、国際機関、市民社会団体、その他の活動団体に対して次のことを求めてきたとされている。

 

1、核兵器のいかなる使用も、破滅的な人道上および環境の危害を生じることを認めること。

2、核兵器の禁止は、核兵器を保有しない国にとっても、普遍的、人道的な責務であることを認めること。
3、核保有国は、保有する核兵器を完全に廃絶する義務があることを認めること。
4、核兵器禁止条約の交渉のための多国間協議を支援する行動をいますぐ起こすこと。

 

さらに今回成立した核兵器禁止条約は、核兵器に関わるあらゆる活動を例外なく禁止しているだけでなく、核保有国が核兵器を廃棄する基本的な道筋を定め、核被害者の権利も定めているという。

 

この歴史を転換させる画期的な条約交渉会議の閉幕にあたり、広島の被爆者サーロー節子さんは「核兵器の終わりの始まり」と演説している。

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運営している人物の素顔とは

 

「ICAN」を実質的に動かしている人物は、どういう人なのか。NHKでは「ICAN」の事務局長を務める、スウェーデン出身のベアトリス・フィンさんと、国際運営委員の中で唯一の日本人川崎哲さんを取材し、先日番組を放映した。

 

取材によれば、ベアトリスさんの活動の原点は、幼い頃に母国スウェーデンで世界各地の紛争や貧困から逃れてきた移民や難民の子どもたちと接したこと、それがその後NGOに身を投じるきっかけになったという。

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彼女はイギリス・ロンドンの大学院で法律を学び、ジュネーブに移って人権問題に取り組むNGOで働き始めることに。

 

この時、核軍縮を話し合う国際会議に参加して、核兵器を各国が「核抑止」の名のもとに保有し続けている現状に、強い疑問を抱くようになったと語っている。

 

やがてベアトリスさんは、世界のNGOが対人地雷やクラスター爆弾を禁止する条約を成立させるのを目の当たりにし、核兵器を禁止する条約の制定に向け活動する「ICAN」に参加。

 

その動機について彼女はNHKの取材に対して次のように語っていた。「スイスやアメリカの立派な会議室に座って、何千人もの人々を無差別に殺害してしまう大量破壊兵器について、現実とは全くつながらない議論が続いていました。政治家の行動を待っているわけにはいかず、いまこそ自分が取り組まなければならないと思ったのです」

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一方、川崎さんは東京大学法学部を卒業後、同級生の多くが中央官庁や法曹界に就職する中、自分は社会の底辺にある問題と向き合おうと、ホームレスや外国人労働者を支援する活動を始めたという。

 

しかし、5年にわたって昼夜問わず仕事や市民運動を続けたことで体力も財力も限界に達し、一時は体調も崩して、生き方を思い悩むことに。

 

そんな時、核兵器廃絶に向けた調査や研究を行うNPOを立ち上げようと声がかかり、以来20年近くにわたって核軍縮の問題に取り組むことになり、7年前「ICAN」に参加したという。

川崎さんは「ICAN」の日本の窓口として、被爆者の体験を世界が共有することが核兵器の禁止につながると信じ、広島や長崎の被爆者の声が世界に届くよう、力を尽くしてきたとされている。

 

そのため核軍縮を議論する国際会議に大勢の被爆者を送り出し、各国の政府代表がその証言や思いを聞く機会をつくってきたそうだ。

この結果、核兵器禁止条約が成立したが、そこにいたるまでには多くの人々の協力や活動があったからとも言われている。

 

「ICAN」の活動のずっと前から、広島市や長崎市、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)、第五福竜丸の元乗組員の方々らが、世界に訴えを広げてきたという。こうした声が2017年の核兵器禁止条約に実ったとも言われている。

 

今後の課題とは?

 

条約が成立したとしても、まだ問題は多く残っている。ピースボートによれば、核兵器禁止条約が発効するためには、50カ国以上が署名し批准しなければならないという。

 

しかし核兵器を保有する大国らは、核兵器禁止条約に署名しないよう多くの国々に圧力をかけているそうだ。

 

実際、今回のノーベル授賞式においても、ロシアと中国の駐ノルウェー大使は授賞式を欠席。すでに米英仏の大使も欠席を表明しており、核保有五大国の大使は一人も出席していない。

 

この背景には、「ICAN」が推進し、授賞理由となった核兵器禁止条約への反発があるとみられている。

 

日本の外務省は「ICAN」の受賞が決まった時には声明で「アプローチは異なるが、国際社会で核軍縮・不拡散に向けた認識が広がることを喜ばしく思います」と述べていた。

 

しかし日本政府は、「北朝鮮の核・ミサイル開発の脅威が迫る現状では、アメリカの核抑止力に頼らざるをえない」として、核兵器禁止条約にも終始反対の姿勢を貫いてきたそうだ。

 

「ICAN」に集う世界の多くのNGOは、日本のこの矛盾に気がついており、日本の市民社会が政府の姿勢を改めさせることを期待しているという。

 

受賞前の記者会見でサーロー節子さんも、唯一の被爆国でありながら核兵器禁止条約に反対する日本政府を「一貫性がない」と批判。日本は核廃絶を目指す「道義的責任がある」と強調している。

 

また対立が激化する米国と北朝鮮の指導者に対しても「絶対に核兵器を使ってはならない」と述べ、北朝鮮核問題の外交的解決を訴えたという。

 

また川崎さんもNHKの取材に対し、活動を続ける中で核軍縮をめぐる日本政府の姿勢に、常に疑問を感じてきたと語っている。

 

「アメリカの核兵器あってこそ日本の安全がある、こういう考え方にずっと支配され続けて、維持しているわけですよね。それで、日本は核兵器廃絶を訴えている唯一の戦争被爆国ですと。この2つがあまりにも相いれないわけですよね」

 

川崎さんは番組の中で若者たちに対し、核軍縮をめぐる日本の矛盾に満ちた状況と向きあい、ともに答えを探していこうと、次のように呼びかけている。

 

「北朝鮮の核が怖いからアメリカの核のもとで守ってもらうしかないという古い考え方をずっと続けていることが、本当にいいのか。そこを悩んでほしいし、考えてほしい」

 

これから50年後、100年後に核が拡散され、「抑止論」が完全に崩壊した時、どうなるのか。これからの時代には、そんな想像力を働かせる必要があるのかもしれない。(了)

 

出典元:ICAN

出典元:PEACE BOAT:ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)とは?ノーベル平和賞受賞の背景を解説します(11/22)

出典元:毎日新聞:平和賞授賞式 「核兵器受け入れられぬ」 ICAN協力・サーローさん会見(12/10)

出典元:NHK:ノーベル平和賞 ICANの素顔(12/9)

 

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