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日本に50万人以上もの“引きこもり”がいると、海外メディアが報じる

日本に50万人以上もの“引きこもり”がいると、海外メディアが報じる
Twitter/Muhammad Rafi

日本に50万人以上にも及ぶ“引きこもり”の人がいると、海外メディアが報道し、注目を集めている。

 

中にはトイレに行くことすらままならぬ人も

 

日本の“引きこもり”について伝えたのは、米国のニュースサイト「Business Insider」。

 

同サイトは日本には自宅に閉じこもり、社会との繋がりを絶った、“引きこもり”と呼ばれる人々が存在すると伝えている。

 

日本政府による公式な定義では、“引きこもり”とは家から出ず、社会と関わりを持たない期間が6ヶ月以上続いている人々のことを指すという。

 

しかし一口に“引きこもり”と言ってもその状態は様々。中にはソファやベッドからトイレへ行くのに立ち上がる気力さえない人までいるとのことだ。

 

さらに一部には同じ行為や思考を繰り返してしまう精神疾患の一種である強迫性障害を患い、シャワーや掃除を毎日何時間もかけて行うため、自宅を離れられなくなってしまった者も含まれているという。

 

 

“引きこもり”は中流階級の病弊?

 

米国ペンシルベニア州フィラデルフィアに本キャンパスを構える、テンプル大学の日本キャンパスでアジア研究を行う教授、Jeff Kingston氏はこのような人々についてBusiness Insiderの取材に回答。雑な一般論は時に誤解を招くことを前置きした上で、こう解説している。

 

「面倒を見てくれる両親と共に実家に住み、重度の“引きこもり”症状を見せる者の多くは男性のようだ。彼らは滅多に自室や自宅を離れることがなく、伝えられるところでは人との交流をインターネット上の仮想世界の中に留めているとのことだ」

 

「これは中流階級の病弊だと考えられる。なぜなら、家族からの支援に頼ることができるのは、そのような家庭環境にある人だけだからだ」

 

日本政府の統計によると、2015年には15~39歳までの“引きこもり”の人が54万1000人もいたとされる。

 

しかしKingston氏によると、家族が引きこもりであることを報告したがらない人もいるため、実際の数はこの数値より遥かに多いのではないかと考えられるという。

 

近年では年配者にまで広がる“引きこもり”

 

今まで、このような人々は若い世代に限られると考えられていたため、15~39歳以外の年齢層に関するデータは現在までのところないという。しかし“引きこもり”生活が長期化するにつれ、そのような人々の年齢も上がってきていると考えられるため、2018年にはそれを踏まえ40~59歳の年齢層における初の調査も行われる予定だ。

 

この調査では、年齢層の高い“引きこもり”の人々を識別すると共に、彼らの家族が高齢化し支援が急務を要する中、必要な援助とは何かということを把握することが期待されているとのことだ。

 

Kingston氏はこの調査について、「これまで行われてこなかった調査を行うことで、より正確な情報を把握することができる」と評価する一方、こんな指摘も行なっている。

 

「彼らのニーズを詳細に伝えることで、政策の向上へと繋がる土台ができる一方、“引きこもり”という社会的不名誉は付いて回ることになる」

 

 

本人達も“引きこもり”であることに深く悩む

 

The New York Timesによると、“引きこもり”の歴史は1980年代中旬まで遡るという。この年代には、無気力状態や人と連絡を取ることを拒む、ほとんどの時間を自室で過ごす、といった若い男性の姿が見られ始めたという。

 

しかしこのような状態に陥ってしまうのに一様の理由は存在しない。ある者は自分の人生においてするべきことを見つけられなかったり、プレッシャーに耐えられなかったために“引きこもり”へと陥り、何か心に傷を負うような出来事に遭遇したり、さらには成績不良から“引きこもり”へと至ってしまうケースまであるという。

 

そのような人々の心理状態について、精神科医の関口宏氏はnippon.comの取材に「“引きこもり”の人々は、普通の人と同じように働くことができないことを深く恥じている。彼らは自身を無価値であり、幸福になるに値しない存在であると考えている。そのような人々のほぼ全ては、両親の期待を裏切っているという自責の念をも抱いている」と説明している。

 

「それと同時に、彼らは外の世界へ行けない自分と、そうすることができない自分を絶えず責める自分との間で闘争を抱えている」

 

また日本の“引きこもり”研究における第一人者の一人として知られる斎藤環氏は、BBCの取材に「彼らは外の世界へ出かけ、友人や恋人を作りたくてもそうすることが出来ず、理性では悩んでいる」と伝えている。

 

 

経済へ与える影響にも懸念

 

しかしながらこのように悩んでいるのは本人達だけではない。54万人以上ものこうした人々を抱えるとされる日本では、このことが経済に与える影響への懸念もある。

 

Kingston氏は「彼らの存在は労働人口を減少させ、労働市場を逼迫させている」という。

 

「さらに彼らは自分で稼いでいないため、家族の死や財政的な問題などにより支援が得られなくなった際には、国による支援に頼らざるを得なくなる」

 

高齢化による労働人口の不足に悩まされている日本では、昨年9月に政府が伝えたところによると、一人の求職者に対する求人は1.5件ほど。ここ40年以上で最も高い数値となっているという。

 

これに関してBloomberg が伝えるところによると、安倍首相は2016年末に“引きこもり”の人のための相談窓口を開設する計画を発表。さらにそのような人の自宅を訪問するスタッフをも配置し、労働力増加へとつなげたい考えを示している。

 

広がりをみせる支援の輪

 

一方、民間では“引きこもり”の人々を支援するボランティア団体も存在し、コミュニティセンターへ足を運ぶことを促し、就労経験もさせるなど、彼らの社会復帰に向け尽力してきたという。

 

さらに近年には“レンタルお姉さん”などと呼ばれ、自宅から出ようとしない人を説得し、外へと連れ出すことを目指す自立支援策や専門職員までも配置されているという。しかしそれでも一度“引きこもり”状態へと陥った人を外へ連れ出すのは容易なことではなく、通常1~2年もの長期にわたる説得が要されるそうだ。

 

また朝日新聞が伝えるところによると、2016年9月には“引きこもり”について伝えると共に、彼らと社会を結ぶ接点となることを目指し、“引きこもり”の当事者らによって「ひきこもり新聞」が創刊。“引きこもり”の人々への支援の輪は広がってきている。

 

 

海外メディアも注目する日本の“引きこもり”問題。我が国の場合はそれが労働力不足に拍車をかけているとして、政府も積極的に支援する姿勢をみせているが、人目に触れぬところに存在するだけに海外でもこのような人々が数多く存在しても不思議はない。

 

50万人をも超える“引きこもり”の人々が存在することは決して誇れることではない。しかし日本の現状が伝えられることで、海外に暮らす同様の人々に目が向けられ、彼らに陽の光が当たることを願うばかりである。(了)

 

出典元:Business Insider:A psychological ailment called ‘hikikomori’ is imprisoning 500,000 Japanese people in their homes — and it’s more of a threat than ever(1/14)

出典元:Nippon.com:The Underground World: Living in Withdrawal from Society(1/8)

出典元:The New York Times Magazine:Shutting Themselves In(2006/1/15)

出典元:Bloomberg:Why Half a Million Young Japanese Can’t Face School or Work(2016/11/28)

出典元:朝日新聞:Newspaper shines light on closeted lives of ‘hikikomori’(12/12)

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