ナマケモノはなぜ動きが遅い? DNA解析で進化の謎に迫る 老化や糖尿病研究への応用にも期待

哺乳類の中で最も動きが遅く、代謝も極端に低いナマケモノ。この南米に生息する生物の背景には何があるのか。研究チームは、ナマケモノの「ゆっくりした生き方」に関わる遺伝的特徴を明らかにし、さらにヒトの老化や糖尿病などの代謝疾患研究への応用可能性を示した。
ナマケモノの代謝はなぜここまで低いのか
ナマケモノといえば、哺乳類の中で最も動きが遅く、樹の上でほとんどの生涯を過ごす生き物だ。代謝は哺乳類の中で最も低く、体温を一定に保つ(恒温)状態と、外気温に合わせて変化させる(変温)状態を切り替えられる。体温の変動差はおよそ5℃という、人間では想像もできない特徴を持つ。
こうした特異な生物学的特徴をより深く理解するため、IZW、ウェルカム・サンガー研究所の科学者らは、飼育下のナマケモノから採取したサンプルを用いて組織からDNAを抽出。ドイツのマックス・プランク分子細胞生物学・遺伝学研究所でDNAに書き込まれた遺伝情報を詳しく解析した。
数千万年保存されてきた“ジャンピング遺伝子”
解析の結果、研究チームはナマケモノのDNAに活性型の転移因子(ジャンピング遺伝子)が数多く残されていることを明らかにした。
転移因子(ジャンピング遺伝子)とは、DNA上で自らをコピーして別の場所へ移動できるDNA配列のこと。研究チームがDNA解析を用いてナマケモノの進化をさかのぼったところ、これらの「ジャンピング遺伝子」は現生ナマケモノの共通祖先、すなわち約三千万年前に出現したものであることが判明。これらの遺伝子はその後も長期間にわたり保存され続け、ナマケモノに固有の遺伝的特徴として定着している。
さらに驚くべきことに、活性型のジャンピング遺伝子の周辺には、ミトコンドリア機能(細胞のエネルギーを生み出す「発電所」のような機能)や代謝経路に関わる遺伝子が多く存在することも判明した。研究チームは、これらの遺伝子がナマケモノの「極端に低い代謝」を支える仕組みの一部である可能性を示している。
ヒトとジャンピング遺伝子の関係
実はヒトのDNAの約45%は、ジャンピング遺伝子に由来する配列で占められている。
しかし、そのほとんどは古くなって機能を失っており、現在は活動していない(不活性)。一方で、ごく一部の活動できる状態(活性)のジャンピング遺伝子は、遺伝情報を変化させたり、がんの発症に関わる場合があることも知られている。
ヒトの老化や糖尿病研究への応用可能性
研究チームは次の段階として、ナマケモノ由来の細胞株を使い、ジャンピング遺伝子の働きを詳しく調べる計画だ。ナマケモノの細胞株は、「自然界で低エネルギー状態に適応した貴重な研究モデル」として利用できる可能性があり、ヒトを含む哺乳類の糖尿病などの代謝疾患や、老化によって起こるさまざまな健康問題を調べるための手がかりになる可能性があると研究者らは述べている。
進化が数千万年かけて作り上げた省エネ戦略は、ヒトの老化や代謝の理解を深める手がかりとなるかもしれない。(了)
出典元:Sanger:Why are sloths so slow? It’s in their DNA(6/9)(現在リンクが切れていますが、念のため掲載しています)
出典元:Springer Nature Link:Elevated retrocopy burden and sloth-specific expansions illuminate mammalian genome evolution(5/19)

























